精煉の道U
□最初は誰にも譲りません。
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誰よりあなたが好きだから。
だからどうか。
あなたの始まりが、俺であるように―――。
《最初は誰にも譲りません。》
もうすぐ年が明ける。
新年の祝賀パーティーで、会場はにぎわっていた。
《蒼い鷹》は、今回その警護を担当していて、ディオンももれなく会場警備にあたっている。
しかし、時間が経つにつれてだんだんとディオンに落ち着きがなくなってきていた。
年が明けるまでは仕事。
しかし、年が明けた瞬間に、実質仕事は終わりになるのだ。
会場にいる全員で―――つまり警備隊も新年を祝わなければ面白くない。という誰の案だかわからない提案があったらしく、
年が明けると同時に、今まで警備をしていた者も祝賀会に参加していいらしいのだ。
とはいっても、それなりに警備として誇りを持っている者は参加もそこそこにきちんと己の仕事をするつもりだ。
ディオンも一応そのつもりだったが、一つだけ。
どうしても、やりたいことがあった。
(あと少し………)
ちらりと時計を確認する。
午後十一時五十四分。
後六分で今年は終わり、新しい年になる。
周りに気を配りつつ時計を気にしていると、声をかけられた。
「あ、いた。ディオン」
「フェルナンド」
皇太子としてパーティーに出席していた親友だ。
彼はいつも通りのほんわかした笑みを浮かべていた。
年が明けてもきっとこの笑みは変わらないんだろうなぁと、頭の隅でそんなことを思う。
「お前、客の相手しなくていいのか」
「あらかた終わったよ。ちょっと疲れたし、どうせ年が明けたら“おめでとうございます”とかの嵐だから、ちょっと息抜きに来たの」
にこりと笑うフェルナンドに、ディオンは苦笑した。
「皇太子も大変だな」
「まあね。それよりディオン、もう少しで時間になっちゃうけど、準備は出来てるの?」
相変わらずの笑みを浮かべる親友に、ディオンは若干「うっ」と顔を歪めた。
彼は、自分がしたいと思っていることをちゃんと理解してくれている数少ない人なのだ。
「うー……が、がんばる……」
ディオンは胸に手を当てて、困ったような少し情けない顔をする。
準備というのは心の準備のことで。
正直、落ち着かないわ動揺するわで、今から緊張気味。
(でも、絶対譲りたくないし……)
子供じみた意地で、ディオンはぐっと拳を握った。
そんな親友を見て、フェルナンドは楽しそうな、優しい顔で笑む。
「本人どこにいるかわかってる?」
「ん。あそこ」
問われて、紫の瞳で視線を送ったその先に、濃紺の制服に真珠色の髪を持つ美貌の将校。
「相変わらず大佐とか近くにいるね」
「うぅ……大佐って何気に俺の敵かも……」
「“近くに”って点ではそうかもねー」
フェルナンドはおかしそうに笑うが、一応今のディオンにとっては、大佐だけでなくあの人の周りにいる人間、基本的にライバル状態だ。
「午後十一時五十八分。もう少しだね」
時計を見つめたまま、フェルナンドが言う。
ディオンも時計の針に視線を落とした。
周りでは、パーティーのさざめきの中、誰もが時計に意識を集中している。
「どうせもう少しで年明けるし、今のうちに捕まえといた方がいいんじゃない?」
ほんわか笑った親友に、ディオンは少しだけ考えてうなずいた。
「うん、そうする。ありがとフェルナンド」
「いいえ。がんばってね」
手を振るフェルナンドに一つ笑んでから、ディオンは人ごみの中を少し早足で歩く。
歩きながら、時計も確認。
後一分………四十秒………二十五秒………十秒……三、二、一 ――――――。
年が、明けた。
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