精煉の道U

□手放したはずの君の涙は、どうしようもなく愛しくて
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大切だった。本当に、本当に愛していたから。


だからこそ、置いて来たのに。


自分勝手な事情で、あの子を危険な目に遭わせたくなかった。


もしも、己の心のままに連れて行ったなら、あの子がその手に持っているものすべてを、もしかしたら壊してしまうようなことになる。


そう思って、置いて来たのに。


ああ、どうして来てしまったのだ。


来ないでくれと、願っていた。(心のどこかで、きっと来てしまうとわかっていながら


それでも。どうしても。巻き込むことだけは、したくなかったのに。


あの子にもしものことがあったなら。


私はきっと、己に課せられている使命も何もかも投げ捨てて、いっそ死にたくなる。


それほどまでに、あの子のことが愛しかった。


思い出すのは、帝国を出るその日の夜のこと。


泣きながら、「ここにいて」と言われた。


私の考えていることが分かっていたわけではないだろうに。


それでも何か感じ取っていたのか、「どこにもいかないで」と懇願された。


あの子だって、どうして自分がそんなことを言ったのかわかっていなかったようだったのに。


あの言葉が、泣いていたあの子が愛しくて、愛しくて。


だから、置いて行くことを決めたのに。


ああ、どうして来てしまったのだ。


そう思うのに。来ないでくれと願っていたのに。


今、自分を映す潤んだ紫の瞳には、ただ愛しさしか、感じなかった――――。












《手放したはずの君の涙は、どうしようもなく愛しくて》











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