精煉の道U

□傍にない温もりが、どうしようもなく恋しかった
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それは、本当にかすかな違和感だった。


ともすれば見落としてしまうような、そんな。


いつもいつも、あまり胸の内をさらけ出さない彼から感じた、ほんのわずかな違和。


ああ、どうして俺はあの時。


悔やんでも、彼は今、隣りにはいない。


けれど、思ってしまう。


もしもあの時、彼の手をつかんで、絶対に、意識を失っても絶対に、離さなければ。


もっと強く、願いを口にしていたのなら。


自分は今、彼の隣りにいられたのだろうか………――――。










《傍にない温もりが、どうしようもなく恋しかった》












「中将、どうしかした?」


ふと感じた違和に、ディオンは首を傾げながら目の前の恋人に尋ねた。


連邦の革命戦が無事に終わり、それに参戦していた《蒼い鷹》の任務も終わり。


途中でいろいろあったけれど、ベニートとの決着(と言っていいのかわからないけれど)も終わった。


すべてが終わり、みんな思い思いに休んでいた。


ディオンの親友も愛犬たちと自室で休んでいて、ディオン自身は疲れていたけれど、休んでしまう前に、


このひと月近くずっと会えなかった大好きな彼の傍にいたくて、彼の部屋にいた。


いつもと同じような穏やかな時間。自分は彼の傍にいて、彼も自分の傍にいてくれる。


いつもならただ穏やかで幸せな時間なのに。


平素無表情で、自分といる間はそれが多少緩和されている、その綺麗な顔から。


どこか強張った………いや、何か悩んでいるような感じがした。


「何でもない」


薄青の瞳は、一瞬だけ意味ありげに細められ、しかしすぐにいつもの表情に戻ってしまう。


何でもないと、彼は言ったけれど。


「でも、何か………何ていうか、中将、悩んでる?」


そう言うと、彼は薄青の瞳でじっと自分を見つめてきた。


数秒、そのまま沈黙。


「…………ディオン」


小さく、囁くように名前を呼ばれたかと思えば。


そのまま、まるで壊れ物を扱うように、優しく抱きしめられた。


「中将……―――キース……?」


二人きりの時でも、気恥ずかしくてめったに呼ばない彼の名を呼んでみる。


自分を抱きしめる腕に、さらに力がこもった。


「キース……? どうし―――」


問いかけは、彼の口の中に消えた。


唐突にされた口づけに、ディオンは軽く目を見開く。


「んっ……ぁ……ふ、ぅ……んんっ……っぁ……っ」


薄く開いていた唇を割って侵入してきた熱い舌に、ディオンは頭がくらくらした。


目を閉じて、彼に縋る。


「ふっ……んぁ……ふはっ……あ……っ」


優しく口内を這う舌に、ディオンは恍惚とした眩暈を感じて体からは力が抜けてくる。


唇が離されて、互いを銀の糸が繋ぐけれど。


もっと、もっと。まだ彼を感じたくて、無意識にディオンの舌は彼の唇を追いかけた。


それに応えるように、再び合わされる互いの唇。


呼吸すらも放棄したくなるような、そんな気持ちになる。


「ディオン………」


離れた唇が、今度は耳元で己の名を呼ぶ。


熱を孕んだその声に、ディオンの背筋にゾクゾクとしたものが走った。


首筋に吸いつく彼の唇が、感じる吐息が、ディオンの体に過分な熱を与えていく。


「キース……」


そうして、彼の首に腕を絡めたのを合図に、互いの熱は混ざり合い始めるのだ。













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