精煉の道U
□大嫌い⇔大好き
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大嫌いの反対。は、大好き?
《大嫌い⇔大好き》
「ちゅーじょーっ!」
いきなり背後から結構大声で呼ばれて、振り返る。
駆け寄ってくるのは、愛しい恋人。
紫の瞳をキラキラと輝かせて、とても楽しそうな顔をしている。
「ディオン、何だ?」
駆け寄ってくる途中に問いかけると、彼は答えずに、まるで激突するように思いっきり抱きついてきた。
その勢いに呑まれて、キースは珍しくそのまま後ろに押し倒される。
……軽く頭を打った。微妙に痛い。
表情はいたっていつも通りで、キースは突然のことにやや目を眇めて、自分の上に乗っかるようにしているディオンを見た。
彼は、
「中将、聞いて聞いて!」
ものすっごく楽しそうな―――否、ものすっごく“悪戯っぽい”楽しそうな顔でキースの顔を覗く。
「……何だ」
いきなり飛び付くな、危ないだろう。とか、そのやけに楽しそうな顔は何だ。とか、色々言いたいことはあったが、敢えて言わずに問い返した。
ディオンは、ずいっと顔を近づけてくる。
結構な至近距離で彼は、
「中将、大っ嫌い」
にっこりと満面の笑みで、いきなり暴言(というのだろうか?)を吐いた。
瞬間、キースは固まる。
そして固まったキースに、ディオンは満面の笑みを浮かべたまま、ちゅっと可愛らしいキスをした。
二重の意味でフリーズしたキースを満足そうに見て、ディオンは来た時と同じように脱兎の勢いでまたどこかへ行ってしまう。
後には、押し倒され「大っ嫌い」と言われ何故かキスをかまされたキースだけが、そのままの体勢でしばらく硬直していた。
「………いきなり抱きついてきたと思ったら仮にも恋人に「大っ嫌い」と言ってそのくせキスして逃走するのには、どんな意味があるんだ?」
その後、キースは無表情がわずかに困惑したような顔で、親友に聞いてみた。
「は? ……ああ、ディオンにやられたのか?」
尋ねられて、最初カイルは怪訝そうな顔をしたが、すぐに何か思い至ったのか、納得顔でそう訊いてきた。
キースは素直に頷く。
「そんな落ち込んだ顔するなって。あの言葉を額面通りに受け取るのは、今日に限ってはなしなんだぜ」
「今日?」
「そ。さて、今日は何日だ?」
面白そうな顔で問われて、カレンダーを見る。
「……四月一日、か?」
「そ。つまり、エイプリルフール。嘘をついても許される日ってやつだよ」
……ということは、ディオンのあの「大っ嫌い」は、嘘と言うことで―――。
キースは、知らずホッと息を吐いた。
「おいおい。何そんなに安堵してんだよ」
カイルがからかうように笑うが、それより何より、あの「大嫌い」が嘘だということに安堵する。
「好きな人間にいきなり何の予告もなしに「大嫌い」と言われてみろ」
正直、心臓が止まるかと思った。実際、行動と思考回路は停止した。
幾分苦々しげにボソリと呟いたキースに、カイルはニヤニヤと笑う。
「お前をそこまで落ち込ませることができるのって、ディオンくらいだよな。お前、そのうちあいつに勝てなくなるぞ〜」
「……うるさい」
ちょっと自覚のあるキースは、誤魔化すように目を眇めて、からかう親友を睨んだ。
(好きな人の「大嫌い」は、何よりも致命傷になるのです)
―――――嘘でよかった。本当によかった。(心底安堵している自分に、笑うしかないのが少しおかしかった)
Fin.
アトガキ
エイプリルフールでもないのに、エイプリネタ(笑)。
キースは無表情でも、実はディオンにベタ惚れしてるといい。
ディオンの一言一句、一挙一動に内心で動揺してしまえ(ニヤニヤ)。
そして時たまうっかりミスをしてしまえ。
とにかくこの二人が大好きですvV
おまけ→
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