精煉の道U

□君が欲しい
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君を見付けたのは偶然と言えば偶然だろう。


けれど、君を見付けられた事を私は感謝するよ。


白状しよう。


これほど興味を引き、この心を魅了するものに、私は生まれて初めて出会った。





君こそ私の運命だ。







《君が欲しい》










「だぁあ! もうっ! 勘弁してよ〜!」


目の前の黒髪の少年は、心底困ったような顔でいきなり吠えた。


「どうしたんだい、アレグロ君」


「どうしたもこうしたもない! 俺は、音楽をやるつもりは、ないの!」


だからこんなのもらっても困る!


困ったような、申し訳ないような、ちょっと複雑そうな顔で、彼はぷいっと目の前の打楽器から視線を背けた。


「それではもったいない! せっかく素晴らしい才能を持っているのに」


彼の奏でる音は、私の創作意欲を掻きたてる素晴らしいものだ。


「君は私の女神(ムーサ)だ。ぜひとも一生私の側で、君の音を奏でて欲しい」


「俺は男だ! ていうかどこをどう聴いたらそんな感想持てるんだ!?」


俺、幼年学校での音楽の成績はずっとCだったのに!!


どこか口惜しそう(?)にそう呟く少年。


「過去は関係無い。私は、今の君の持つ音が欲しいのだよ」


心の底からそう言えば、彼はがくっと肩を落とした。


「アレグロ君?」


首を傾げると、澄んだ紫色の瞳がちょっと疲れたように、けれど真っ直ぐに見返してくる。


口にした事はないが、この瞳も結構気に入っていた。


媚びる事も欺く事もしない、どこまでも澄んだ瞳。


決して光を失わないその瞳を持つ彼だからこそ、あんなに惹かれて止まない音を奏でる事ができるのだと、心の内で納得する。


「軍人だなんて危ない事、出来れば今すぐ辞めて私の元に来てほしいくらいなんだが……」


本気の本気で、私は彼が欲しい。


真面目な顔でそう言うと、最初ぽかんとしていた彼の頬が、カァッと赤くなった。


「お、俺は《蒼い鷹》を辞めるつもりはない! 辞めても演奏はしない!」


「そんなつれないこと言わないでおくれよ。悲しさのあまりつい連邦の経済を一気にどん底に落としたくなるじゃないか」


「おと……っ!? ちょ、それって脅しじゃん! 汚いぞ!」


焦ったように表情を変える彼が何だか可愛くて、自然と笑いがこみ上げてくる。


クスクス笑っていると、からかわれたと思ったのか、じと目で睨んできた。


(半分は本気なんだが……)


内心で苦笑する。


彼の祖父とは違い、彼はとても素直で思ったことが顔に出やすい。


コロコロと変わる表情が、その実年齢より幼く見えてくるくらいだ。


「なら、早く私の元に来てくれ」


「〜〜〜〜〜っ、い・や・だ! だいたい、あんたが気に入るようなもっと音楽センス良いやつなんて、いっぱいいるだろ!?」


それはそうかもしれない。けれど、


「私は、君が欲しい」


彼が彼であるからこそ、こんなにまで欲しいと思うのだ。


そう言うと、まだ幼さの残る頬が一層赤くなる。


「…………あんた、それ、天然で言ってるの?」


「何がだい?」


「…………」


「アレグロ君?」


首を傾げると、彼は赤い頬のままふいっとそっぽを向いた。


「………ディオン」


「ん?」


「俺の名前。アレグロ君じゃない、ディオンだ」


人の名前くらいちゃんと覚えろ。


どこか拗ねたような口調でそう言われて、最初思わず呆けてしまう。


それから、何だかおかしくなってクスリと笑った。


「なら、君の名前をちゃんと呼べば、私のものになってくれるのかい?」


「ものって………あんたはどこまで本気なのかわかんないやつだな」


「私はいつでも本気だよ。君のことに関してはね、ディオン君」


「―――! …………よ、呼べるんだったらちゃんと呼べよな!」


呼べと言うから呼んでみれば、いっそ可愛いほどに反応するものだから。


「やっぱり私は、君が欲しいな」






君の持つ音も、そのコロコロと変わる表情も。


すべて私のものにしたくなる。








――――さあ、どうやって手に入れようか。

















Fin.











アトガキ


初のベルンハルトとディオンの絡み。
指揮者様が音楽用語を使っていないのは、管理人が音楽用語を知らないからです!!(爆)

てゆーか機嫌がいいと音楽用語で話すって、あなた他人と会話する気あるんですか!(←ないんじゃないですか?(笑))
ベルンハルト様って結構どころかめっさ難しいよー。
あ、でも。
彼はフェルナンドに続く腹黒だと思う(笑)。




ここまで呼んでくださり、ありがとうございました。







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