精煉の道U

□最初は誰にも譲りません。
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年明けと同時にあちらこちらから新年を祝う声が湧き上がる。


その中を、ディオンはひたすら目的の人物目掛けて足を進めた。


ディオンの目的の人物――――真珠色の髪に、銀がかった薄青の瞳を持つ美しい青年。


キース・アーベルン中将。ディオンにとって、誰よりも大切で愛しいと思う、恋人。


彼の傍には、士官学校時代からの親友であるカイル・ブラナー大佐。


と、自分たちの方に向かってくるディオンに気付いたのか、薄青の瞳がこちらを見た。


(あああ……っ)


自分を見た瞬間に薄青の瞳が優しげに細められたのを確認してしまい、ディオンは知らずほんのり頬を染めて内心で妙な声を上げる。


「ディオン」


名前を呼ばれて、ちょっと覚悟とかどうでもいいくらいにじわりと嬉しくなった。


が―――。


「おー、ディオン。明けましておめでとう。今年もよろしくな」


キースの隣にいたカイルにいつも通りの笑みを向けられ、ハッとする。


「あ、えーと。中将も大佐も、明けましておめでとうございます」


一応礼儀として新年の挨拶。


二人に「おめでとう」と返され、取り敢えず挨拶は終了だ。


「にしても、なんつーか怒涛のような一年だったよなー」


感慨深げにカイルが笑い、キースは相変わらずの無表情で相槌を打っていて。


(ど、どうしよう………)


目的達成のためのチャンスは、今だろうか。


いやでも人がいる前だと恥ずかしさとか何かいろいろなもので爆発しそうだ。


(あああっ、心の準備してたはずなのに!)


いざ目標を目の前にすると、これだ。


ディオンが脳内でぐるぐるそんなことを考えていると、何かを思い出したようにカイルがキースを呼ぼうとし、


「あ、そういやキー「大佐っ!!」


“キース”の“ス”の字を言い切る前に、焦ったようなディオンに遮られた。


いきなり声を上げたディオンに、カイルだけでなくキースまで不思議そうな視線を寄こす。


「なんだ?」


「えっ……あーその……えっと……」


不思議そうに若干首を傾げたカイルに、ディオンはどもる。


別に彼に用があって言葉を遮ったわけではないのだ。


おろおろと視線を彷徨わせるディオンを、薄青の瞳が少し怪訝そうに見つめる。


(うー……ど、どうしよう……)


内心で焦っていると、今度はキースの養父であるエイモス・アーベルン元帥が来た。


彼も彼で息子に新年の挨拶をしに来たのだ。


「養父上。明けましておめでとうございます」


養父を認めて、キースは礼儀正しく新年の挨拶をする。


エイモスはそれに笑みを浮かべ、


「ここに居たのか。明けましておめでとう、キー「元帥っっ!!!」


またもディオンに途中で遮られた。


先ほどのカイルたちと同じように、元帥は少し驚いたように旧友の孫を見やる。


「ディオン? どうしたんだね?」


「えっと、あの……あ、明けましておめでとうございますっ」


不思議そうに見られ、ディオンは取り敢えず新年の挨拶で誤魔化す。


(このままじゃどんどん人が増える〜。い、今のうちにここから離れないと………)


ディオンがそう思った時、


「そうそう。それでさ、キ「大佐ぁっ!!!!」




ドゴンッ―――!!!




近くにいた給仕からとっさに奪った盆を、カイルの顔面目掛けて反射的にぶん投げた。


いきなりそうくるとは思ってなかったカイルの額辺りに、見事に盆がクリーンヒットする。


ディオンはハッとしたが、もう遅い。


「あ……ご、ごめん。つい」


反射的だったから思いっきり投げたせいか、カイルは少しのけ反った後、顔面を抑えてしゃがみ込んでいる。


「お、お前……いきなり何………」


ちょっと涙声のカイルに、多少の罪悪感は芽生えるも、正直今のはカイルが悪いと思いたい。


黒髪の少年のいきなりの暴挙に唖然としていた元帥とキースをちらりと見て、ディオンはぐっと覚悟を決めた。


「大佐、取り敢えずごめん! わざとじゃなかったんだけどつい反射で! っていうか中将ちょっと来てっ! 元帥、中将のことちょっと借りますっ」


早口でそう言うなり、無表情だけど少し唖然としていたキースの白い手袋をはめた手を取り、早足でその場を去る。


「……何なんだ?」


赤くなった額をさすりながら、カイルはしゃがみ込んだまま怪訝そうに首を傾げた。


「さあ……。カイル、大丈夫か?」


唖然とディオンとキースを見送っていた元帥は、ちらりと息子の親友を見やって尋ねる。


額だけでなく、その鼻の頭まで赤くなっていたのだ。


「いや、めちゃくちゃ痛いですよ」


新年早々こんな痛い思いをするとは思わなかった。


カイルは痛む場所をさすりながら苦笑した。









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