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□San Valentino
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2月14日
San Valentino━━━

今日は恋人、夫婦達が、日頃の感謝と素直な気持ちを伝える日。愛を確かめ合う日。
バレンタインデーの発祥の地、イタリアでは
Festa degli innamorati(恋人たちの日)とも呼ばれる。
 しかしそんな日に穏やかでない様子の二人。二人は男同士だが甘い言葉を囁き合う恋人のはずだが…

+ + +

「何でこんなに貰ってくんだよ!」

「くれるっつうんだからしょうがねぇだろーが」

 そこには可愛くラッピングされたたくさんのチョコレート。数は大小含め、軽く50個は超えるだろう。ポリポリと頭をかくシャマルは、目の前の睨みをきかしている愛しの恋人をちらりと見る。

 日本のバレンタインと言えば女性から思いを寄せる男性にチョコレートを渡して愛の告白。なんて定着しているが、バレンタインの起源とされている彼らの母国イタリアではだいぶん異なる。なかでも一番の違いは、決まった相手、恋人同士や夫婦がお互いに贈り物をするということだろう。贈るものもチョコレートに限らず花束、本、CD、アクセサリーなど、様々だ。だから相手のいないフリーの人々には関係のないイベントとなるらしい。それがなぜこんな迷惑な風習になってしまったかと言うのは、某デパートと某チョコレート会社の策略だと言うことは有名な話。
 そしてイベント事の好きな女子生徒達に渡されに渡されてこの有様。シャマルは一応『保健の先生』だ。全校生徒と関わりがある。弁解しておくが、シャマルは一切ねだっていない。そもそもこんなへんてこな『ばれんたいんでー』は知らなかった。

「ったく…」

 隼人は大きくため息をつく。今度はシャマルの提げている袋を少し睨んだかと思うとあたりを見渡し、隼人はスタスタと違う部屋へ向かった。そこはシャマルが日本に来てから半年近く経っているにもかかわらず片付けきらない荷物が入っている部屋だ。空にしたダンボールの箱を無言で引っぱり出す。
 隼人の行動を目で追っていたシャマルは差し出された手に素直にチョコレートの入っている袋を全部渡す。怒りっぽい恋人の機嫌を治すには好きなようにさせるのが一番いいことをシャマルは知っている。ダンボール箱に全てを移し終えると結局2箱になった。

 そういえば隼人は一つも貰わなかったのだろうか。隼人も相当渡されているだろうと思っていた。その性格と切れ長の目で、周囲からは恐がられてるかも知れない。さぼり癖と授業態度はいわゆる不良だ。しかしそれとは逆に成績が良く、イタリアの血を引く、日本人離れした顔立ちと銀髪。ひそかに人気があるのは知っている。

「全部受け取らなかったのか?」

「俺は全部断った!」

 ふと浮かんできた疑問が口から出てしまった。瞬時にやばいっと思ったが遅い。シャマルの思った通り、なのになんでアンタは…!という言葉を乗せてキッと睨む。
 なるほど。シャマルには効かないが、この目で睨まれたら渡すに渡せない。正確に言えば断ったのではなく、よせ付けなかったということだろう。

「悪かったよ、こんなにもらってきて」

 機嫌治せよと、シャマルは隼人を抱き寄せる。反省の言葉をいい、瞳を見つめて許しを乞うた。思い出して欲しいが今日は恋人たちの日。シャマルはこの日のためにちゃんと準備していた。冷蔵庫にはいつもより少し豪華な夕食のための食材が入っている。隼人が外食に行くよりシャマルの料理が食べたいと言ったからだ。

 チュっとキスすると、隼人がもう怒っていないことがわかる。隼人だっていつまでも仏頂面でいたくない。素直に謝られたらいつもの恋人同士だ。

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