小説

□紅蓮の灼熱(序章)
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ここは駆け出しの者から熟練の者までの様々なハンター集う酒場。

この場所で皆、依頼(クエスト)を受け、またそのクエストに共に挑む仲間を探すのだ。


――……今日もその酒場でひとつの物語が始まろうとしていた。




「おねえさん。そのエプロン姿、かわいいね!」

金髪で浅黒い肌の男が両手にジョッキを二つずつ持ったウェイトレスをナンパしている。

ウェイトレスは一瞬だけ男に視線をやって愛想笑いをした後、すぐに前を向き忙しそうに働きだした。

酒場はすでにハンター達や街の人々で満員だったが、それでも男は女性に声をかけるのを止めなかった。

ぱっと身を返して、まだ駆け出しと思われるうら若き女ハンターの方へと歩み寄る。

「ねえ。君、まだハンター成りたてなの? 俺が先輩として何かお手伝いできるといいんだけどな」

そう言いながらその肩を抱き、男はニッコリと微笑んだ。


……じつはこの男、かなりの美男子だった。

背も高く、目鼻立ちがはっきりした堀の深い顔に碧い瞳は優しげだ。

通りすがる女達がつい振り向いてしまうような容姿の男は更に極上の笑みを浮かべる。

「ね? 一緒に食事でもしながらこれからの相談しようよ。……いいでしょ?」

よく響くテノールの声で囁かれると、

「は、はい……」

肩を抱かれた女ハンターはうっとりと頷いた。


だが次の瞬間、ズッと何かを素早く引きずるような音がしたと思ったら、ゴチン! と鈍い振動が男の右脛(みぎすね)に響いた。


「痛ってー!」

男は激痛が走る右脛を抱えて、文字通りに飛び上がった。

その大声でうっとりしていた女ハンターはハッと我に返り「ごめんなさい! 私、他の人と約束してるんで!」と言いながら、そそくさとその場を立ち去ってゆく。


取り残された男の側には、小柄だがそれに不釣合いな大剣を持った赤毛の女の子が顔を真っ赤にして立っていた。

どうやらこの女の子がそばにあった椅子を蹴って、男の脛に椅子の脚をぶつけたようだ。


「なにすんだよ! メリー!」

男は右足を引きずるようにしながら、その女の子を睨む。

怒りで顔を上気させた女の子……メリーは男の睨みに臆する事無く怒鳴りつけた。


「イシス、いい加減にしなさい! いい歳して恥ずかしい!」

だが、イシスと呼ばれたその男は舌打ち混じりに「一緒に狩りに行く仲間を探してただけだろ」と全く反省の色がない。

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