物語
□続・春雨〜欲深き〜
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「剣心、此処で下ろして。家の中ならもう平気。」
玄関に着くなり薫殿が言う。
(下ろす?まさか、このままくっついていたいでござるなぁ〜。)
「継いで〔ついで〕でござる。薫殿の部屋まで連れてくでござるよ。」
にっこり微笑めば。
「もうっ。」
と言いつつ拙者の言う事聞く薫殿。
(赤い頬が可愛い。)
すたすたと廊下を進み考える。
(こんな雨の日、薫殿とゆっくり時間を過ごしたい。)
しゅっ。
「剣心?」
「おろっ?何でござる?」
「此処、剣心の部屋。」
違う事を考えていると、自然と自室に足を向けていたらしく、薫殿に言われ気が付けば自室の襖を開けていた。
「薫殿、不便でござろう?夕飯まで一緒に過ごすでござるよ!お茶を煎れるでござる♪」
ぽふっ。
と薫殿を過ごし易い様に布団を敷き、座らせる。
「何か欲しいものが有れば言うでござるよ。」
足を冷やす為の水袋を薫殿に渡して、お茶を置きながら言う。
「剣心?」
「んっ?」
「何で?」
「何がでござる?」
(薫殿が言いたい事は分かっているが知らぬ振り。)
「何がじゃなくて。」
薫殿と触れていたくて、薫殿の背に己の背を付けて座ったでござるが…。
「おろ?嫌でござるか?」
もう、直球勝負でござる。
「嫌じゃないけど、剣心重い…。」
「あぁ、すまないでござる。」
(上手くいかないでござるなぁ〜。)
ぽんぽん。
薫殿が直ぐ横を叩く。
うん?
「剣心、此処に座って。」
にこにこ可愛い笑みを浮かべられれば言う通りにしざぜるえない。
すとん。
素直に薫殿の隣、腰掛ける。
ぽてっ。
薫殿が拙者の肩に寄り掛る。
「薫殿?」
「剣心、嫌?」
少し下から見上げられいつもより可愛らしい目に吸い込まれそうになる。
「嫌な訳無いでござる。」
触れ合ってる肩が温かい。
とくん、とくん。
拙者の心臓が少し脈を崩す。
「剣心?」
自然と薫殿の肩に回してしまった腕に不思議そうな薫殿。
「急に独り占めしたくなったでござるよ。」
素直に出る言葉。
「剣心のばかっ。」
「おろっ?」
不意に否定の言葉に疑問符。
薫殿が拙者に身を寄せた。
どくん、どくん。
乱れる鼓動。
(触れたいでござるなぁ。)
ぽつんと心に湧いた気持ち。
(拙者も男でござる…。好いた女には触れたいでござる…。)
そんな感情久しく無かった故、表現に困る。
「剣心、暖かいね。」
「そうでござるな。」
拙者の表情を伺うべく、薫殿が拙者を見上げる。
薫殿の紅い唇。
(口付けたいなど、少し欲し過ぎでござるかなぁ…。)
しかし。
きゅぅ。
近い手が薫殿によって握られる。
「何だか、こんな雨の日もいいわね。剣心。」
穏やかな薫殿との時。
幸な時。
(欲深き拙者。)
きゅぅ。
繋いでいた手と手が指と指に変わる。
どくんっ。
「薫殿。あの、その、でござるなぁ。」
「何?剣心?」
「薫殿、男と云う生き物は好いた女性にそんなに近う寄られれば…。もっと、近う寄りたくて…。……!?」
ちゅっ。
突然、目の前が薫殿でいっぱいに。
甘い薫〔かおり〕。
甘い薫殿。
「剣心、女だって同じよ。」
悪戯地味た目に見つめられる。
どくんっ。
「薫殿。」
ちゅっ。
軽く口付け見つめ返す。
「薫殿、では遠慮無く。」
ちゅっう。
どきっ、どきっ、どきっ
…。
止まらぬ口付けに体が熱く心臓のが騒ぐ。
(あぁ…やはり…。)
接吻により拙者の理性は間際まで追いやられていた。
(欲深い…。)
「剣心?」
「薫殿…。」
しとしと…沈黙は雨の音が埋めてくれる。
(あぁ、このまま雨に紛れて一緒にいれたら。この接吻の様に交じって混ざって溶けれたらどんなにこの心は落ち着くのだろう?)
しとしとと二人の周りを包む優しい雨の音。
(もっと近く、もっと深く。)
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