キリバン

□苦悩の果てに…
1ページ/3ページ

「…」

鏡に写る自分の姿を見つめる
緑色の服、金の髪、空色の双眸…
色彩は昔と変わらないが…
少し硬くなった髪質、高くなった鼻、低くなった声
そしてなにより…
背が見違える程に伸びていた…

本当にコレは俺なんだろうか…?

あまりにも変わり果てた姿に初めて見た時はそう思った
急激な変化に戸惑い、目眩さえ起こしそうになった事も確かだ
だけど…
これでガノンドロフと対等に闘える
忘れもしないあの日の屈辱…
白馬に乗って逃げる彼女を助ける事が出来ず、更に彼奴に力負けし吹っ飛ばされ、オカリナまで奪われるという失態を晒してしまった…
もし、あの時…
彼奴が【サリアのオカリナ】と【時のオカリナ】を間違え無かったら…
彼女が愛したハイラルは、彼奴の物になってしまっていたかも知れないんだ…
本当に運が良かった、としか言い様がない現実
それが自分の力の無さを証明している様で不甲斐ない
鏡に写る自分の姿が何とも情けなく見えて来て…

「…クソッ

パシリと頬を両手で挟むように打って気合いを入れた
弱気になっている場合じゃない
こうやって悩んでいる今でさえ、ゼルダは何処かで助けを求めているかも知れないのだから…
ゼルダ…
初めて出逢った時、その気品溢れる姿に俺は息を呑んだ…
この世界に、こんなにも素敵な女性がいるなんて…
そりゃ、森の中にも女の子は沢山いたさ
サリアを筆頭に可愛い女の子達が…
でも、ゼルダは森にいた女の子とは何かが違ったんだ
上手く表現出来ないけど、何というか…
彼女の周りだけ空気が違う様な気がした
【可愛い】じゃない、【美しい】って表現が合う様な…
そんな彼女も、俺がこれだけ変わった様に、見違える程に変わっているのだろうか?
逢いたい…
ダンジョンの仕掛けを解く度に、一歩一歩彼女に近付いていると信じ、賢者を一人救い出すのに比例して想いは募る
しかし、それとは逆に恐怖心が芽生えて行く
彼女にはあって俺には無いものがあるから…
空白の7年間…
この7年間のうちに彼女は隠れ、逃げながらも様々な事を更に学んだのだろう
元々、森の中で育った俺と、城で育った彼女とはかなりの差があると言うのに…
俺は…
意識をマスターソードの力によって封じられていた為に、何も出来なかった…
この差をどうやって埋めれば良いのだろう?
…俺の全く知らない彼女になってしまっていたら?
…遠い遠い存在になってしまっていたら?
今度は、自分の頬を叩いても気合いは入ってくれそうにも無かった…
黙ったまま視線を鏡から窓の外へと移すと、黄昏時の哀しい色彩のカカリコ村が目に入る
窓に近寄り、ゆっくりと開けると涼しい風が髪を優しく撫でて部屋に吹き込んだ
この村だって…
7年前と同じ様で違う村になっていた…
まるで世界中で自分だけが置いて行かれた様な錯覚…
【時の勇者】という運命を悔やんでも仕方がない事は解ってる…
他人ではなく、俺が選ばれた
これが俺の役目、俺の産まれた意味…
ただそれだけの事、と割り切って考えていた
それでも弱音を溢したくなるのは、黄昏という寂しい時間帯が掛ける魔法なのか?

「本当は…勇者なんかじゃなくて、一人の男としてキミと一緒に7年間を過ごしたかったんだ…」

溢した願いは届く事なく、少し強めに吹いた風が掻き消した
まるで、勇者のクセに何を言っているんだ、とでも言う様に…

「…リンク」

ふと頭上から響いた自分の名前を呼ぶ声に顔を上げる
其処には、今回の旅のパートナーであるナビィが居た

「ナビィ…」

今の弱音…
勿論、聞いていたのだろう
気不味くて、俺は思わず彼女から視線を反らした

「リンク…そんな事を思っていたんだネ…」

困った様な口調のナビィ…
こんな事を口に出した俺に幻滅したのだろう

「…時々思うんだ。【時の勇者】が俺じゃ無かったら…って。ごめんな…幻滅しただろ?」

自嘲気味にナビィに尋ねると、ナビィはその小さな身体を目一杯フルフルと振るわせて否定を示した

「ううん、ナビィはリンクが何時も元気そうにしてるから返って心配ダッタ…」

意外な言葉に俺は黙って続きに耳を傾ける

「だって…一番楽しい時期を失ッテ、こんな大変な戦いに巻き込まれタノニ…弱音一つ吐かないでリンクは立ち向かって行ったカラ。無理をして自分を封じ込めて戦っているんじゃないか…ッテ」
「…ナビィ」

ナビィがここまで俺の事を理解してくれていた事に、驚きを通り越して感動で涙が出そうになった
ナビィなら俺の苦しみを解ってくれる…

「俺…怖いんだ」

気が付くと、ナビィに悩みを打ち明けている自分がいた

「ゼルダを助けたい、逢いたい、そう思う反面、出逢う事に恐怖を抱いている自分がいる…ゼルダが全く違う人になっていそうで…この7年間の差が彼女と俺の間に埋められない溝を作っているんじゃないかって…」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ