作品その2

□悪ノ時代
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二人はいつも一緒だった
奔放で何事にも捕らわれない兄と
生意気で勝ち気な弟
姿形のよく似た二人

ある日兄は弟に告げた

「明日からはもう、一緒に居られないんだぜ」

「ふーん、そう」

勝ち気な弟は答えた
どうせまた放浪にでも出るのだろう
そう、思ったから
くしゃくしゃと撫でられるその手が好きだっただけなのに


「おはようございます。本日からリョーマ様付き召使いに任ぜられましたリョーガです。以後、お見知り置きを」

普段通りの朝
普段と違う兄

「…何の、冗談?」
「冗談ではないですよ」

ニコリ、笑う
意味が、理解出来なかった
縋るようにシャツを握る
いつものように撫でて欲しくて
だけど

「リョーマ様」

窘めるように
縋った手をやんわりと重ねる
唐突に理解した

「もう、一緒には居られないって…」
「そうです」
「こういう事だったんだ」
「リョーマ様は御聡明でいらっしゃいますね」

何があったかは聞かない
答えてはくれないから
だから、今自分に出来ることは

一つ、目を伏せ深呼吸をした
手を放し、一歩下がる
真っ直ぐにリョーガに向き直り顔を上げた

「リョーガ、私に忠誠を誓うか」
「最後の血の一滴まで」
右手を差し出し跪かせる
手の甲にキスを
それが契約

「これで、良かったのかよ…」
「聞くな」

最後の決別
滲む涙を振り切った

「無礼者」
「失礼致しました」

姿形のよく似た二人
その将来は分かたれた
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