お題小説

□暗黙の了解(千伊武)
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千石さんの部屋
受験生らしく問題集に向かう対角線上
静かにお茶を飲み、読書に精を出す

「伊武くん」
「はい、」

ふと、顔を上げると千石さんは俯いたまま
そのまま名前を呼ばれ、手を出されたので
電子辞書を手渡す

「ありがとう」
「いえ」

集中の切れない千石さんを、正直凄いと思っている
千石さんを見て、時計を見て、千石さんを見る
少し、悩んだが、声をかけた

「千石さん」
「うん、どうぞ」

脇の本棚から本の続きを渡された
その間も集中は続いていて
一生懸命に何かに打ち込む姿はかっこ良かった
そんな千石さんの側に居れる幸せを噛みしめて、
表紙を開く前にふわり、笑う

「伊武くん」
「イヤですよ」
「良いじゃないですか」
「…8割以上正解だったら、」
「頑張りますよ」
「どうぞ」

筋道さえ立ててくれたら、
あなたの前で笑う事も
抱き締められる事も
決して嫌ではないのだから

心の繋がりが
沈黙の中
足らない言葉の中
暗黙の了解になって、

唇を綻ばせた

表紙を開く

さぁ、早く名前を呼んで
幸せに連れて行って


end


 
 

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