お題小説
□繋いだ手(日吉滝)
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「寒い」
「そうですね」
すっかり陽も落ちた部活帰りに並んで帰宅する
吐く息は白く、体感温度は摂氏0度
暑がりで寒がりな滝は、帽子、マフラー、コートと、暖かそうな物を着けて
それでもまだ、寒いと言う
「寒いー」
「それは俺もですよ」
「寒い」
繰り返し繰り返し、寒いとしか言わない口振りで
何かをさせたいのだと漸く気付いた
「…、なる程」
もう一度ゆっくり滝を観察して
足りない物で確信を得る
「寒いー」
「黙って」
少しだけ強引に
冷えた右手を掴んで絡める
「付けてください」
「うん」
左手にはさっきまで自分がしていた手袋を渡す
自分から仕掛けてきた事なのに、恥ずかしそうに
嬉しそうに笑うのは反則だと思う
繋いだ手を、離したくなくなるから
end