お題小説

□そんなところも可愛いよ(千伊武)
1ページ/1ページ

「千石さん、」
「伊武くん」

街中でばったり会った二人
休日の昼下がり

「どうしたんですか?見たところ独りみたいだけど」

問うと、気まずそうな顔で伊武は上目遣いに見てきた
互いの部活が休みなのは、貴重
それを反故にして、家族旅行に行くのと言った伊武
浮気ではないだろうが、一緒に過ごしたくないと言われたようで、少なからずショックだった

「…違うんです」
「家族旅行が?」
「いえ、家族旅行は、本当なんですけど…」
「行かなかったの?」
「はい…呆れませんか?」
「大丈夫だよ」

一度眼を伏せ、深呼吸
意を決したように顔を上げた伊武を、優しく見る

「クリスマスプレゼントを、買いに来てたんです」
「…誰の?」
「家族や部活の人たち…は、迷わなかったから平日に買えたんです」
「うん、」
「だから、千石さんのを」

最後のセリフは、段々と小さくなっていって
ぐるぐると巻かれたマフラーに、顔と一緒に吸い込まれていった

顔を隠す黒髪を、右手でさらりと払う

「一緒に買いに行こうとは思わなかった?」
「…プレゼントは、驚かせないと意味ないじゃないですか」
「そっか」
「千石さんの受け売りですけど」
「…、そんなところも、可愛いよ」

右手を頬に付け、ヒンヤリとした感覚を楽しむ
こちらが照れている事は、悟られないように

「で、買えた?」
「まぁ…買ったと言えば、買いました」
「ん?」
「言っちゃったら、楽しみ無くなりますよ?」
「それもそうか」

漸くクスリと笑った伊武は、触れられた右手に左手を添えながら口を開いた

「その代わりに、今夜家に泊まりませんか?」
「良いんですか?」
「良くなきゃ、言いませんよ」
「じゃ、喜んで」

かさりと音を立てた紙袋には、マフラーの作り方と落ち着いた色の毛糸が入っていた




end

 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ