お題小説

□お前以外はどうでもいいから(光謙)
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パタパタと駆けてくる音に
今回は命の保証はされている事を感じながら振り返った

「謙也!謙也!」
「何や、金ちゃん?」
「謙也はな、たこ焼きと部長が崖から落ちそうになっとったらどっち助ける?」
「…は?」

部活のマスコットが目を輝かせてジャージの裾を引っ張りながら答えを催促する
その手を優しく払いながら飼い主…もといママが登場した
きちんと視線を合わせて、語りかける

「あかんで、金ちゃん。謙也にはな…イグアナと財前どっち助ける?や」
本物の親子っ振りを微笑ましく思いつつ蔵に尋ねた

「心理テストか何か?」
「いや、俺の自己満」

素晴らしい即答に呆れる

「ほんま金ちゃん好きやな」
「金ちゃんが最近千歳ばっかりやからな、充電や」

ギュッと金ちゃんを抱き締めて言われた

「パパとママやなぁ」

その腕を抜けて金ちゃんは再びジャージを掴んで催促を始めた

「謙也はどないする?わいめっちゃ考えた!でもたこ焼きはぎょうさんあるけど部長は独りやんか?」
「せやな」
「やから部長助けんねん!」

キラキラと真っ直ぐ
天真爛漫に育っている子に
良い子良い子と頭を撫でてやりながら答える
前後からの好奇心の塊のような視線は無視して

「金ちゃん、俺は残念ながらイグアナやわ」
「えーそうなん?」
「うん。」

答えた途端、案の定、後ろの視線が恨めしそうに声をかけてきた

「…見殺しっスか」
「ちゃうで」

金ちゃんの頭を撫でるのを止めないまま、即答する

「どこが違うんですか」

やはり、わからないとばかりに、今度は少し怒りも滲ませつつ質問が重ねられる

喧嘩前のような雰囲気を感じて金ちゃんは不安そうに俺を見上げてくる
大丈夫、というように先刻の蔵と同じように視線を合わせて、光に答えた

「俺を置いて死ねるような光なら、はじめから要らんねん」

途端、金ちゃんは笑顔になり、光はおそらく、驚いていた

「じゃあ、謙也は財前の事嫌いなわけと違うんやな!」
「せやな」

それと同時に後ろでは照れた顔のままの光と面白そうな蔵が会話をしていた

「…部長」
「20分経ったら部活帰って来ぃや」
「短っ」
「それ以上やったらお前、コトに及ぼうとするやろ」

…無言なのは肯定ですか、光くん
連れ立ってコートに戻る母子を見送ると、後ろから抱き締められた
その腕に触れたまま尋ねる

「光は?大事な物と俺、どっち選ぶ?」
「残念ながら謙也さんに見合うような物、あらへんわ」
「そうなん?」

コダワリだらけの部屋なのに。
なんて意外な答えだろう
と思っていると、
スルリ、身体が反転させられて光と目が合った

「あんた以外はどうでも良ぇ」


「…うん」

真剣そのものの目に、返事が一瞬出来なかった


「不覚にも、さっきの答えめっちゃ嬉しかったです」
「奇遇やな、俺もや」


end


 

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