お題小説

□もっと近くに来て(千伊武)
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カラリとグラスの氷が溶けた

「聞きましたよ」
「何をですか?」
「今までの女性遍歴」

一見無表情な顔をイタズラっぽさが満たす
そこを見逃す関係ではない
千石がニコリ、笑んで即答する

「今では一筋ですよ」
「知ってます」
「なら良いです」

「…だから困ってるんです」
「何を?」

「同じ気持ちなのを」

本音。
普通なら『重い』とか『面倒』とか、感じると思ったのに。

「…結構な殺し文句ですよ?」

完全にフリーズした彼が珍しく、とても楽しい

「もっと言いましょうか」
「心臓が持つ程度にお願いします」

何て正直。
その正直さには本音で。
普段は言えない本音で。

「千石さんだけなんです。側にいるだけで、幸せになるの。だから、他に良い人沢山居るけど、」
「けど?」

「もっと…伊武深司の近くに来て、ください」

目をそらさず言い切った。
分かりやすく顔を隠し、机に突っ伏した彼は、まだ照れた顔をして見上げてきた

「…本当に、どうしたんですか今日は」
「明日は台風なんで。」
赤い目元にこっちが照れる。
悟られないよう、窓を見遣る

「台風に感謝なんかしませんよ」
「そうですか」
「伊武くんに感謝です。」

あ、形勢逆転。
グラスに添えていた手を捕られ、甲に口付けを

「喜んで」

見なくても分かる。
今きっと真っ赤だ。

「気障ですね」
「いや、今日の伊武くんには負けますよ?」

どうでも良い。
もっともっと近くに感じたい。
…と、伝えられたから。

「ところで女性遍歴の情報源は?」
「柳さんです」
「…」



end

 
 

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