作品その1

□梅花の候(日吉滝)
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キンと冷えた空気
放課後で人がまばら
全校の羨望を集めつつ
近寄れないレギュラー部室
新部長として、鍵をかけるとため息をひとつ

またか

もう、朝からいくつ貰ったか分からない。
告白を伴う物は全て断り
義理の物は兄や母の為ありがたく受け取る
去年より増える事を見越していなかったので部室に置いてある紙袋を2つ程拝借した
バレンタイン
ウンザリとささくれ立った感情のまま振り返り歩き出す
最後の一人だと思いたい

隠れていた生徒が出てくる
暖かそうなコートを着ているがまだ寒そうで
手にはチョコレートにしては細長い箱
「お疲れ様」
その姿と声だけで気分は急浮上
「滝さん、チョコレートは?」
「景吾に頼んだ。姉さんが離れに食べに行ってると思う」
「そうじゃなくて、俺に」

ストレートな言葉にふわりと微笑んだ
「チョコは、家にあるよ」
「これは何?」
「プレゼント」
「ネクタイですね」
「そ、制服の」
「滝さんの?」
「うん。服装違反中」
「じゃ、俺のあげますよ」
「ありがとう」
自然に繋がれた手は予想通り冷たく
愛おしいものだった
「帰りましょうか」
「着けてね、ネクタイ」
「滝さんが卒業してからも?」
「もちろん」
「じゃあたまには会いに行かなきゃいけませんね」
「うん、僕も行くし…約束ね」
「もう一つのプレゼントですね」
「そう…だね」
大事な大事な愛しい人
さて、何を返せるかな

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