拾った子供は大人の…特に男を恐れた

夢に見るほどに恐ろしかったのだろう。朝、様子をチラリと見ると寝台の中で小さく蹲り震えている姿が映った。唇からは助けて…と、何度も何度も繰り返し言葉が漏れる。
涙など枯れるのではないかと思う程零れ頬を濡らし、顔は真っ青。
目覚めても暫くは布団から出られない。

「大丈夫だ」

そう言って抱きしめて、漸く布団から出てきて涙を拭う。

何度も繰り返し繰り返しその光景を目撃し、ついには一緒に眠ることにした。悪夢は何度も子供に絡みつく。 

「大丈夫だ」

本当は誰しもが持っているものをこの子供はどこかに落としてきてしまったらしい。

「もう、大丈夫だ…」


子供は決して誰の名も口にしなかった。



『橙色の檻』


魏に帰って来た一同はそれぞれ休暇が与えられた。
陸抗は早速今回の戦のことを郭嘉に報告に向かい、今後のことを話し合う。
曹操は陸抗と郭嘉のやりとりを静かに見ている。

『そう…そ、う‥さま?』

初めて陸抗が自分の名前を呼んだ時、堪らず抱きしめてしまった。それがまるで昨日のことのようだ。


同時に脳を掠めるあの言葉

『抗と言う名の‥』

「‥渡すものか」

ポツリともらした言葉はどうやら二人の耳に入ったらしい。視線が曹操に注がれ、それには微笑みだけを返し「気にするな」と手を振る。
二人は顔を見合わせると再び地図に視線を戻しなんやらと話しを初めた。


――――



寂しいと泣いていた。言葉にせずに、涙を零さず心が悲鳴をあげていた。

「泣かないのか?」

言葉に出したら悲しそうに微笑まれ、ソレがたまらなく悔しい。
抱きしめたら僅かに体が震えていて何故か自分が泣いてしまった。

「ずっと俺の側にいろ」

酷なことだとわかっていても止められない

ねぇ守ってあげるから

どうかその笑顔を絶やさないで

咲いたばかりの花のように微笑んで





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