闇が全てを包み込む世界

寝台の中で小さく蹲って眠る子供を見て

一人にしたくなかった




* 千の夜 *




「預かってくれ」

突然やってきたと思ったら当たり前の様に子供を置いて行く。
文句の一つも言ってやりたいところだが、幸いその子供は大人しく周囲の者が思っている以上に優秀だった。

「そこの棚の、左から3番目の書簡を取ってくれ」

小さい身体で懸命に背を伸ばし、子供は書簡を持ってくる。初日は邪魔だと思っていたが、書簡を取りに行く手間が省けて予想よりは助かった。
3日目で子供は膨大な量に膨れ上がった書簡の位置を全て記憶し、4日目には空いた時間に読み始めるようになっていた。

「わからなかったら聞いて来い」

頭の上にハテナマークを浮かべて首を左右に動かしていたので言ってみた。そうしたら子供は嬉しそうに駆け寄ってきてわからない場所を指差し質問するようになる。

「ああここは…」

5日目。何故か殿までもが俺の仕事場に居つくようになった。別に構わないが子供を見る目が怖い。
乱世の好雄と呼ばれた男がまるで子供が大好きで仕方ない父親のようだ。
ソレを言ったら「ならば奉孝、お前が母親だな」と言ったので力いっぱい書簡を投げつけておいた。


「なあ奉孝。」
「何ですか?」

眠ってしまった子供を膝の上にのせたまま、殿は俺に話しかける。

「この子供どう思う?」
「ただの子供ではありませんね」

歳はわからないが幼いながらに文字を読み、食事の時の作法も完璧にこなす。ただの民で無いことは明らかだ。

「名前はわからないのですか?」
「まだ聞きだせん」
「せめて姓がわかれば良いのですが…」

子供は殆ど言葉を出さない。否、出せないのかも知れない。
典医は心の病気だと言っていた。現にこの子供は殿と俺、それに最近ようやく楽進にも慣れ始めた。それ以外の大人は駄目らしい。姿を見かけるだけで震えて蹲ってしまう。

「大人…か。」
「殿?」
「いや、子供なら平気かと思ってな。子供過ぎず、かと言って大人すぎず…」

ふと殿の言葉に一人の人物が頭に浮かぶ。

「殿、適材がいるのですが」
「本当か?!早速つれて来い!」
「御意。殿はどうされますか?」
「ああ、俺は…」

二人の視線が眠る子供に移る。

「起こすわけにはいかんだろう。ここで待っている。」
「わかりました」



子供の相手は子供

後にこの考えを死ぬほど後悔することになるとは、この時はまだ考えてもみなかった…




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