『もう大丈夫だ』
ボロボロになって壊れてしまったの
綺麗な物が汚く見え
諦めと言うものを知り
自分を消したくて仕方なくて
『過去の夢』
一番初めに映ったのは黄昏色の空。
体は痛いのに何故だかとても安心できる。季節は秋の終わり。もう直ぐ冬がやって来るはず。なのに、寒くない。
僅かな揺れを感じる。どうやら馬に乗っているらしい。
「起きたか?」
ゆっくりと顔を上げる。その動作さえ億劫で、秘かに眉を寄せ、すると目元を大きな手で遮られる。
「寝ていろ」
言われるままに瞳を閉じる。すると意識は瞬く間に闇に飲まれた。
わからない
何もわからない
自分の名前は『陸抗』と言うらしい
それ以外なにもわからない…
―――――
馬をゆっくりと走らせながら郭嘉は自分の腕の中で子供が再び眠りに着くと、前方を走る曹操に声をかけた。
「殿」
郭嘉の言葉に殿と呼ばれた男、曹操が馬を止める。
「どうかしたか?」
「この子供のことなのですが…」
「ああ」
――…どうするおつもりですか?
喉から出かけた言葉は途中で詰まる。
「殿…?」
「暫く俺が預かる」
ソレは否定を許さない言葉。郭嘉は腕の中で眠る子供と、曹操を見比べ、肩を竦める。
「言っておきますが。どうなっても知りませんよ?」
「ああ」
「ならばもう言うことはありませんね」
「なんだ嫉妬の一つもしてくれんのか?」
「して欲しいのですか」
郭嘉の言葉に曹操は肩をすくめ、先ほど助けた子供の寝顔をチラリ見る。
幼いながら整った顔立ち、肌は白く、今は閉じている瞳の色は蒼。将来がとても楽しみだ。
「じっくり育ててやる」
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