夢を見る
幼い頃の自分の夢だ

以前ははっきりと思い出せていた父の顔も、今では霞んではっきりと思い出せない

それ程までに時が経ってしまった

私はここに居る
帰り道を探している

忘れてしまう前に、私は帰ることが出来るのだろうか?




**帰り道を探して**


影が長く伸びる。一人の少年が弓を番えていた。
長く伸びた髪は両脇と頭上で一つに纏め。風が吹く度ゆらゆらと揺れる。

その瞳は真っ直ぐに的の一点を見据えていた。
ヒュンっと風を切る音の後的の中心に矢が刺さる。次いで聞こえてきたのはパチパチと手を叩く音。

「上達したな」

少年は険しい表情を崩し満面の笑みを浮かべると声の主に駆け寄る。

「曹操様」
「次の戦には連れて行けるな」

優しく頭を撫でられると照れているのか、少年は俯いてしまう。
少年…陸抗は今年で16になる。
幼い頃山賊に襲われている所をたまたま狩りに出ていた曹操に助けられ、それ以降彼の世話になっていた。
陸抗が覚えていたのは自分の名前だけ。それ以外のことは覚えていなかった。自分がどこから来て、何故山賊に襲われていたのかもわからない。
一時期曹操が色々と調べてくれていたが詳細はわからないままだった。
手がかりが得られないまま時は流れ、陸抗は戦に出られる歳になり曹操の提案で戦に出ることになった。もしかしたら、父親が戦に出ているかもしれないからだ。
陸抗を助けた時、彼の周りには精鋭と思われる兵士が何人も倒れていた。武器を見て、共に狩りに出ていた劉曄が名の在る将の子供ではないかと言った。
可能性は低いが、陸抗が覚えていなくても父親が彼を見つけてくれるかもしれない。もし、敵方だったらと考えると恐ろしいが、それでも一生わけのわからないままよりはましだと思う。
中には寝返ると言った者もいた。しかし、そんなことは無いと曹操は断言した、何故ならば…

「今晩、良いな?」
「‥はい」

曹操は陸抗を気に入っている。幼い頃から…彼を拾ってから自分の手で育てた。

「安心しろ、戦の前だ。そんなに激しくはしない」
「はい」

鳥篭と呼ばれる邸で彼は過ごしてきた。そこは、曹操と限られた者だけが入ることを許された秘密の邸。

キスの仕方も
身体の重ね方も

全て自分が教えた


「大丈夫。俺が守ってやるからな?」
「はい」

陸抗の全てを曹操は掌握している

本当は帰り道を知っている

それでも教えてあげないのは




―――



「俺はお前を手放せぬ」

疲れてしまったのか眠る陸抗の髪を撫でながら、漏れた言葉。
こんな少年に溺れるだなんて思っても見なかった。

誰にも渡せない
誰にも渡さない

一生閉じ込めて離さない

だからこそ戦に出す

「帰る場所はここだ…」

もう帰る場所など無いのだと、この少年に知らせる為に

酷なことをすると言われた

だが

「お前は俺の物だ」

手放すことはできない



全てを断ち切って

奪い取る


「誰にも邪魔などさせない」




――…全てはこの時の為に







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