陸抗と陸遜が再開して暫くの後、陸抗が呉に帰ることが決まった。

呉に帰れば周りからの批判や中傷もあるだろうがそんなものに負けない強さを陸抗は魏で学んだ。
だから大丈夫だと劉曄に背を押され、楽進やホウ徳、賈クも誘って思い切り酒を飲み、郭嘉と曹操と最後の夜を過ごした。
何もせず。いつもと同じ夜。それはとても特別で大切な一夜。


そして別れの朝が来た。

「他の者は兵の鍛錬があるから、見送りが私だけですまんな。」
「いえ、ありがとうございます。」

国境まで付き添ってくれた劉曄に礼を言って陸抗は陸遜と共に魏との国境を越える。
正式訪問でなかった為他の者達は見送りに出られない。
近々陸抗が魏に滞在していた記録も消されてしまうだろう。それでも‥

「劉曄様‥」
「ああ」

堪えきれなかった涙が陸抗の頬を伝う。

「また、来ても良いですか?」

本来であれば口にすることもないであろう言葉。飲みきれず、零してしまった。
劉曄は微笑み懐から書簡を取り出し陸抗に手渡す。

「殿からだ。国境を越えて、呉が近付いてから読むといい。私はいつでもまっているよ。」
「…ッはい。」

涙を拭い、最後に劉曄に‥魏という国に向けて礼をすると陸抗は陸遜の待つ馬車に乗り込んだ。

国境を越えてからは陸路ではなく船に乗り換えた。
船は順調に長江の流れに乗って呉へと向かう。毎日陸遜が呉の話しをしてくれたので思ったよりは寂しさを感じなかったが兄の死を知った時は流石にショックが大きかった。
それでも陸抗は陸遜の前では決して涙は見せず気丈に振舞って見せた。

そうして船は呉の首都建業の近くの岸辺へと着き、目と鼻の先が故郷という頃陸抗は別れ際もらった書簡を広げた。

陸抗へ宛てられたその書簡には曹操の文字で完結に思いが綴られていた。

『呉を制圧して本当の意味でお前を手に入れてやるから覚悟しておくように。』

彼らしいといえば彼らしい。思わず笑みが零れた。陸遜もそんな陸抗に気付いて笑みを浮かべる。
陸抗は呉に着いたら返事を書くことを決めた。

この書簡に答えを返さなくてはいけないから。


『お待ちしています』

たった一行の書簡が曹操の下へ届けられたのは季節が一つ回った頃だった。



好きや嫌いとは違う

この気持ちを感情で表すのは難しすぎる

互いに求めていたものを持っていた

それは形を持たない不思議な気持ち



一年後。魏と呉は同盟を結んだ。
曹操が呉へと直々に訪問してきて、二喬と孫権と陸抗を寄越せと言って孫家を筆頭に呉の一同と壮絶な喧嘩をしたのはそのもう少し後のお話し。











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