運命なんてどこでどう変わるかわからない

こんなことが現実に起きるだなんて到底考えようが無いだろう


一生呉で生きて行くのだと思っていた
2番目だって良い
自分はこの家が好きだった

例え…父に愛されていなくても良い

『本当は愛されたかったのに』




ガタンと馬車が揺れた拍子に目が覚めた。

「お目覚めですか?」

聞きなれない声。まだ重たい瞼をゆっくり上げると、そこには此方を見て微笑む兵の姿。
ぼんやりとした頭は全てを理解するのに時間を要する。
それに気付いたのか、兵士はクスクス笑いながら自分の膝を枕代わりに眠っていた子供の頭を優しくな撫でた。

「まだ眠っていて下さい。次の町までは時間がかかります。」

そう言われてしまえばまだ幼い子供は素直に眠りの海へと再び身を委ね、兵はその姿を見て表情を強張らせる。

「こんなに小さいのに…人質だなんて。」

酷い話しだ。

他の誰かに聞かれたら間違いなく首を跳ねられただろう。それでも、言わずにはいられなかった。
兵には弟がいた。病気で死んでしまったが、生きていたらこの子供と同じ位の歳だった。どうしても重ねてしまう。

「幸せになってもらいたい」

自分はたまたま良家の出身と言うことでこの子供の世話役兼護衛を任され、生まれた時から護って来た。
この子供の望むことを兵は知っている。だが、その望みは兵には叶えられない。


――――



血の臭いが辺りに充満している。子供は必死に逃げていた。沢山の大人が自分を追いかけて来ている。暗闇の中泣きそうになるのを必死に堪え、月の灯りだけを頼りに逃げていた。
それでも幼い脚では大人からは逃れなれなかった。

恐怖で声も出せなかった。ただ、震えて為されるがまま。
近くで先程まで自分を守ってくれていた兵が倒れている。生きてはいるだろうが、死んでしまうかもしれない。血が、沢山流れている。

「衣は売ってしまおう。綺麗な顔してるし、身代金をもらったら何処かに売り飛ばそうぜ!」
「正に一石二鳥だな!」
「先ずは大人ってものを教えてやらないといけない。男だが、まあ良いだろう。」

ゲラゲラと気持ち悪く笑う男達。その手が、子供の服を奪っていく。必死に抵抗するが全ては無駄に終る。気持ち悪い手が肌を這う。

逃げようとするとわき腹に鋭い痛みが走る。殴られたらしい。痛みに涙が頬を伝う。大人しくなった子供の肌を男の生暖かい舌が伝う。

――…ちちうえ‥

もう駄目だ。諦めた途端、先ほどまで子供を見下ろしていた男の頭が飛んだ。次々と上がる男達の悲鳴。響き渡る剣戟の音。


「大丈夫か?!」

紅い水が子供の顔を濡らした。

月明りの下。
まるで神か何かのように、その人は居た。

「こんな子供に‥」

その青年は自分の衣を子供にかけてやり、抱き上げる。

「もう、大丈夫だからな?」

優しく抱きしめられたら堪らず、安堵から涙と嗚咽が止めど無く溢れた。

「大丈夫だからな…」


子供の何かが、終わりを告げた瞬間だった





運命の糸はゆっくりと絡み、狂って行った

子供は名を陸抗といった
青年は曹操といった



二人は出逢った




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