抱き上げたら驚く程軽く
とても温かかった
*空 の 星*
兵に指示を指示を出した後曹操は声の聞こえた場所へと向かう。空耳かも知れない。だが、久し振りに自軍の者以外で生きた者の声。茂みを掻き分け僅かな音を頼りに目的地へ向かう。
「静かにしろ!!」
何かを殴りつける音や汚らしい言葉が鮮明に耳に入ってきた。曹操は剣を構え、更に近付く。
数はそんなに多くないらしい。声の主の姿を捉えた時、視線の中に子供の姿が映る。瞬間的に体が動き剣が肉を切り裂き鮮血が宙を舞う。呆然とする山賊達に構わず全ての者を斬り捨てた。
残ったのは自分と、汚れて‥汚されてしまった小さな子供。
「こんな子供に‥」
伸ばした手にさえ子供は脅えているようで何も纏っていない身体には痛々しい痕。
曹操は自らが纏っていた上着を子供の身体にかけてやる。そうして怖がらせないように膝をつき、その子供をゆっくりと抱き上げた。
「もう大丈夫だからな?」
抱き上げると震えていた身体は一層震え、曹操の衣がジワリと濡れていく。
「大丈夫だ‥」
何度も繰り返し繰り返し、曹操自身も久方振りに触れた生きた人間の温もりに安堵した。
――――
助けた子供の正体がわかったのは数年前のこと。子供が自分の名前を口にしたことでおおよその目星をつけ、その周辺を徹底的に調べ上げた。
本当は帰してやろうと思っていたのに‥
陸遜の次男である陸抗が数年前から行方知れずになっている。
ある日陸抗は身辺を警護していた兵と共に姿をくらませた。
同時期。魯粛の活躍により呉と蜀は無事同盟を結んだ。
陸抗の捜索は今も続いているが―…
そこまでしかわからなかった。否。それだけわかれば十分だった。
人質
幼い子供
この子は同盟の人質として差し出されたのか?
調べれば調べるほど裏付けるようなものが次々と浮かび上がってくる
この子はこんなにも泣いているのに
簡単に差し出してしまうのか?
ずっと求めているのに?
「渡すものか…」
いつからだろうか、この子供に、ここまで醜い感情を持ち始めてしまったのは
自分がこの子を救ったように、この子に自分が救われていると気付いたのは…いつのこと?
いらないのなら渡さない
「ずっと此処にいるといい…」
真実が何であろうと関係ない
覆い隠して
君を傷つける物は許さない
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