□青春■

□彼女の忘れ物は多かった。
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毎日毎日忘れ物をしている姿は

いつしかわざとにしか見えないようになった


でもお前が忘れ物をしてしまうは
…しょうがない事だったんだ






【彼女の忘れ物は多かった。】






「日吉 歴史の教科書貸して!」

「嫌だ」

「なんで?」

「いつもいつも変な事を教科書に書く奴には貸せない」

「変じゃないよ!その日の事を書いてるだけだよ」

「自分の教科書に書け」

「その教科書がないから困ってるの」

「お前はいつになったら忘れ物がなくなるんだよ」

「だってしょうがないじゃん」



これが嫌な事に日常になっていて
毎日懲りずに何かしら忘れ物をしてくる

誰かに借りて授業に望む態度はいいにしても
それをきちんと元の状態で返してほしいものだ


しかし何故
隣のクラスじゃないC組からF組まで借りにくるんだ

周りの奴らはそんな俺らを見てはやし立てるから迷惑な話だ


…だか
結局いつも貸してしまう俺自身意味がわからない



アイツは教科書を持ってスキップをしながらクラスから出て行った

途端
C組の奴がアイツに焦った顔をして話し掛けていた


「日吉 何見て…あぁまた、か」

「なんだ?」


アイツと入れ違いで来た鳳は俺の視線の先を見つけ一人で納得していた

鳳は同じクラスだから俺よりアイツの事を知っている


鳳はアイツから目を反らさず
寂しそうな顔をしながら言葉を続けた


「あの子最近忘れる事が多くてしょっちゅう呼び出されてるんだ」

「俺のとこに毎日借りに来てるぞ」

「毎日!?…やっぱりもう駄目なのかな…」

「駄目って何だよ」

「…内緒だよ?」



―――――…





あれから三日経った


アイツはぱったりと俺のとこに来なくなり
こないだ貸した歴史の教科書すら返しに来ない


本来は俺が返してもらいに行くなんておかしな話だが
次の授業で使うので仕方なくC組に向かった




















『あの子記憶がどんどん失くなってく病気みたいなんだ』

『とりあえず病院には通院していて様子をみてるんだって』



移動中に先日の鳳との会話が脳内で繰り返しこだましていた

そんな訳がない
アイツが有り得ない

そんな言葉を繰り返し流れる言葉に上乗せして
C組のドアを開けて鳳に呼びかけ教科書を取らせた



クラスに戻る途中
今の授業の範囲を開く

アイツはその日の授業で使ったページに言葉を書き残す


嫌だと言ってはいたが
実は返された後にこれを見るのが楽しみになっていた


「………っ」


見た瞬間俺は教科書片手に学校を飛び出していた

ここらへんに大きな病院は一つしかない


そこを目指して走った






病院に着いてナースステーションでアイツの名前を言えばすぐに病室を教えてくれた

病室を教えてくれたという事は
学校に行けないくらい病状が進行している状態かもしれない


焦る気持ちは足の速度を早めた

遠くない距離が凄く長く感じ 息まで切れてきて


病室の前で呼吸も整えず
勢いのままドアを開けた



病室に入ると
真っ白い室内 更にキツい薬剤の匂い
まるで別世界に来たかのようで

アイツはベッドで上半身だけ起こしていて
いきなり入ってきた俺に笑顔を見せた



「お、おま「なにもってるの?」


近付いてきた俺の持っている教科書を指差していたので
俺は指を挟んでいたページを広げてアイツに見せた

並ぶ文字の列に 眉間に皺を寄せて頭を傾げてるが
きっとこれが教科書という事もわからないんだろうな


「ねぇ…なに?これ」

「お前が三日前に俺から借りた教科書だ」

「なんてかいてあるの?」


それは三日前にアイツ自身が書いた部分だった
ひらがなすらも読み方を忘れてしまったんだな…


「………すき って書いてあるんだよ」






最後の最後で書かれた本心を知ったのは

もう忘れて戻らないものだった



教科書を忘れていい
ノートも忘れてもいい
シャーペンだって忘れてもいいから


これだけは忘れて欲しくなかった



end


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