078 シャングリラ後日談
□焼け野原に一輪
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不快なほどの眩しさにうっすらと目を開けると、違和感に襲われた。
なんで電気ついてんだろ……。
暫く考え、はっとした。
そうだ、昨日……!!
「やばっ! うわ……!」
慌てて体を起こした。
あの後寝落ちしたんだ! 着替えもしないでシャワーも浴びないで化粧もそのまんまで電気もつけっぱなしで……!
時計を見ると、四時半だった。
やっちゃった……。
こんな時間にシャワーは浴びられない。とりあえず化粧だけを落とし、ベッドに戻って携帯を手に取ると、電源が落ちていた。
あっぶなぁ……今起きなかったらアラーム鳴らなくて絶対寝過ごしてたわ……。
携帯を充電器に差して電源を入れると、翔くんからラインが届いていた。
『今日はありがとうございました!
すごく楽しかったです
週末が待ちきれないです!』
週末……やっぱり、デートしたいって思ってくれてたんだ。あ、でもそういえば、土曜日の朝美容院の予約入れちゃった。ていうか、週末ってもしかして金曜日も含まれてる? 菜々と約束しちゃったわ。確認しなきゃ……。
そう考えるうちに私はまたうとうとと眠ってしまい、いつもの時間のアラームで目が覚めたせいで、大慌てでシャワーを浴びるはめになってしまった。
電車に飛び乗り、吊革に掴まりながら携帯を眺めた。朝、菜々からラインが届いていたのを改めて読むと、料理のレシピがいくつか添付されていて、一つ一つに菜々のコメントが付いていた。ラインが届いた時間が六時台なのに驚き、私と違ってほんとマメで真面目なヤツだなあ、と苦笑いした。お昼にでもじっくり読もうと「ありがとう!」のスタンプだけを返した。会社の最寄り駅に着き、小走りで腕時計を見ると始業の十五分前だった。
会社まで走れば十分もかかんない! イケる!
階段を駆け下り駅の出口に向かうと、突然人影が飛び出して来た。
「きゃーーーっ!!」
「うわっ!!」
思わず叫び声を上げてしゃがみ込んだが、飛び出して来た人物を恐る恐る見上げると、
「翔くん!?」
「おはようございます!」
「おはようございますじゃないわ!! 朝から何!?」
「だって!! 昨日ラインしたけど既読つかないし、寝てんのかなーと思って俺も寝ましたけど、朝になったら既読はついてたけど返信ないから、もしかして何かあったんじゃないかって心配になって……」
………。
「で、駅で待ち伏せしてたってこと?」
「そーです!! 遅いからマジで心配しました……」
「私が来なかったらどーするつもりだったの! 自分も遅刻する気!?」
「あと5分待って来なかったら諦めようと思ってましたけど、もし始業しても出社されなくて連絡もつかなかったらって気が気じゃなかったです。さ、急ぎましょう! あ、よかったらカバン持ちますよ」
「もう!」
走り出した翔くんを追い掛けたが、この子のペースには付いて行けない。速過ぎる……。
「ちょっと……もっと、ゆっくり走ってよお!」
「遅れますよ!」
「こっちヒールっ!」
「じゃあおんぶ……」
「なんでそーなんの!!」
信号に捕まり、助かった、と息を整えた。
「はぁ……そんなに心配なら、電話とか、追撃のラインとか、はぁ……くれても、よかったのに」
「俺も思いましたけど、前に仁美さん、自分は余裕で既読スルーする人だって言ってたでしょ? もし無事だったら、後で怒られるかなぁって……」
「一応……付き合ってる彼氏には、既読スルーしないように、心がけるよ」
「昨日したじゃないですか! どうしたんですか?」
う……。
そういえば、と思い出した。今さらと思いながらも顔を背ける。
「……笑わないでね」
「え?」
「昨日あの後、友達と電話してて……あんたのこといろいろ話してたの。で、電話切って、なんかふわふわした気分になって、そのまま寝ちゃって……」
「えー!?」
「朝方一回起きたんだけど二度寝しちゃって、寝坊したの……化粧落とさないで寝ちゃったせいで、今日顔のコンディションが整ってないから、あんまり見ないで……」
笑わないでと言ったのに、翔くんは吹き出した。
「ちょっと! 笑うなっての!」
「あははっ、すいませ……あ、青ですよ!」
「もお〜〜!」
走りながらも、翔くんは息を切らさずに話し掛けて来る。こっちはゼイゼイ言ってるってのに……。
「仁美さん、めっちゃ可愛いです。お友達にノロケ話してたってことですか?」
「ノロケ……違うからっ!」
「あ……じゃあ、愚痴ですか?」
「いや愚痴じゃないけど……」
「じゃあノロケ話ですね! あーーその電話の内容聞きてえなぁ……」
「だからぁ! そんなんじゃなくて……」
あっ、そうだ、思い出した。
「そういえば、今日、終わる時間、一緒だったら、ちょっと、話したいんだけど」
「一緒じゃなくても話したいです!!」
「まあ……また、ライン、するからっ。あと、今日は、お昼、別々ねっ」
「え〜〜!?」
「昨日……言ったでしょ! はぁっ、もームリ、しゃべれないっ」
「仁美さん、体力ねえなあ……」
「あんたが、異常なのっ! はぁっ、あー、着いた! 間に合ったぁ……じゃ、後でね!」
始業七分前だった。
あぶなーーギリギリ!
まだ何もしていないのに、来ただけでへとへとだ。今日の入荷予定を確認すると、忙しくはならなそうだったので安心した。デスクに携帯を置くとラインの画面が目に入り、朝の菜々からのラインを思い出した。さっさと仕事片付けてちゃんと内容読まなきゃ。デスクに着き、頬を両手でパシパシと叩いた。