078 シャングリラ後日談

□不撓不屈
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『はぁーい。どしたー?』

「菜々〜〜……」

『んっ!? ほんとにどうした!?』

「金曜の夜空いてる……?」

『金曜? うん、今んとこ空いてるよ』

「ちょっと買い物付き合ってほしい……。で、そのあと泊まりに来てほしい」

『おおー。翔くんと何かあったな?』

「ないよ別に何もっ!」

『いーから、いーから! でも私土曜日の朝美容院行くから、朝9時にはおいとまするからね』

美容院……。

「私も美容院行きたい!」

『え!? 何それ!!』

「ちょっと一旦切る! 予約してからまた電話する!」

『何よそれ〜〜!!』

慌ててホットペッパービューティのアプリを開く。土曜日の朝イチは空いていなかったが11時から予約ができた。改めて菜々に電話を掛ける。

『はいはーい。も〜慌てちゃって、仁美ちゃんってばかわいいわ! 恋は人を狂わせるね〜!』

「殴られたいの……?」

つい凄んでしまったが、菜々は全くお構いなしだ。

『買い物って何買うの? 泊まりに来てって何? 何があったの?』

「まあ、服とか……あと下着……」

『下着っ!? あ、あーっ! そういえば私が達樹くんと付き合い始めた時も仁美にムリヤリ下着買わされたな〜〜懐かしい!』

「何よっ! 買ってよかったでしょ!」

『てゆーか、え!? これから下着買うってことはまだ何もしてないの!? へえー!』

「きゃー!! 詮索するな!!」

『割と奥手なのかなー。で? 泊まりに来てってのは?』

「んー、ちょっと、教えてほしいの……なんか、簡単に作れるご飯とか……」

『ええっ!? や〜〜んもう、信じらんない! 仁美がそんなこと言うなんて〜〜!!』

菜々のはしゃぐ声が耳にキンキン響く。

ほんっとに恥ずかしい……。

『それはいいけど、翔くんの好みとかわかるの?』

「イチジクがキライだって言ってた……」

『ぷふっ。いやそーいうことじゃなくて』

「まあ、ほんとに作るかわかんないし……」

『あ、まだ何も言ってないのね。わかったわかった、何か考えとく! 金曜は早めに仕事切り上げるようにするね!』

「うん……ありがと」

『そん時また詳しい話聞かせてよね!』

「う……ん。わかったよ」

電話を切り、ベッドに突っ伏した。

別に週末にデートする約束してるわけでもないし、したとしても部屋に来てくれるかどうかわかんないし、料理を振る舞うかどうかもわかんないし、それなのに先回りしてこんな仕込みみたいなことあらかじめするなんて……。

菜々の「恋は人を狂わせる」という言葉が頭の中で繰り返された。

ほんとにその通りかも。自分でも自分のこんな中学生みたいな一面に戸惑ってしまっているんだから。

そんなに短くするつもりないけど、髪の毛切ったら何か言ってくれるかな。もし部屋に来てくれたら、なんて言うかな。もしご飯作ることになったら、おいしいって言ってくれるかな……。

何も実現してないのに、考えてるだけで幸せ……。

ふわふわと温かい気持ちに包まれ、いつの間にか私は深い眠りに落ちて行ってしまった。



END
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