078 シャングリラ後日談
□天邪鬼
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「もお〜〜〜！！ なんなの、あいつ〜〜〜！！」
部屋に戻り、ベッドにダイブして脚をばたつかせた。とりあえず、頷いて私も手を振ってふらふらとアパートの廊下を歩いたはずだが、もう細かい記憶は曖昧だった。
まだドキドキしてる……。死ぬ。このままだと死んでしまう……！
「年下のくせに……！ あんなの、ずるい……！」
暫くゴロゴロ転がり、またうつ伏せになった。伸ばした腕に付けている腕時計を見ると、二十三時だった。頼む起きててくれ！ と菜々に電話を掛けた。一番の友達はすぐに電話に出てくれた。
『はいはーい。遅かったじゃん！ 新卒くんとデートしてたのー？』
「もおっ！ あんたまで私のことからかってんの！？」
『ええっ！？ あんたまでって……弄ばれたの！？』
はっ……。
「いや、違う。ごめん取り乱した」
『何よ！！ どゆこと！？』
「えーと……付き合うことになった」
『！！ マジで〜〜！？ おめでとう〜〜！！』
「ありがと……」
『じゃさっきのからかわれたって何！？ イチから説明して！！』
今日の出来事やいきさつを話すと、菜々は気色悪い声でふにゃふにゃ笑った。
『や〜〜ん、めっちゃいいじゃん！ すてき〜〜ドラマみたい！ ごちそーさまー！』
「ドラマみたいって……どの口が言うの？」
『ほんと、よかったね。めっちゃうれしい！ 達樹くんも喜ぶよ。いつも仁美のこと心配してるもん』
達樹くん……。
「あのさあ……この前、菜々には言いそびれたこと、今日翔くんにぶちまけちゃったんだけど」
『え？ ああ……ほんとに仁美のこと好きなのか信じられないってやつ？』
「うん。でも、実はけっこう前から私のこと気にしててくれたって」
『すてきだよね〜〜そこもドラマチック！』
「でも……私も思ったの。ろくに接点なんてなかったのに、ちょっと懐かれたくらいで、好き……になるなんて、私の方こそ惚れっぽいし単純だって。今までも、合コンとかで他の男の人に告白されたりしたことあったけど、別に心動かなかったのに、翔くんは何が違ったんだろうって」
『ふんふん……確かに。何かあったの？』
「この前菜々もちらっと言ってたけど……あの子ね、達樹くんのこと否定しなかったの。私が好きだって言った人のこと、自分も好きだって言ってくれた。一緒に達樹くんの映画観に行って、同じように感動してくれた。それがすごく嬉しかった」
『おお〜〜！』
菜々の声が弾んだ。
『わかる！ 私もめっちゃいい子だと思ったもん』
「なんか……私にとって、達樹くんのこと否定されるって、菜々のこと否定されるのと同じだから」
ぽつりと言うと、菜々もぽつりと言った。
『仁美……いつも気にしてくれてありがとう。本当に嬉しい。自分のことみたいに嬉しいよ』
う……。
「もう泣かせないでよ……」
『いやいや、泣かないでよ！ こっちまで泣けてくるじゃん！』
「もお〜〜。もう切る！ とりあえず落ち着いたし言いたいことは言えた！」
『そだね、また会って話そ！ 明日、翔くんによろしくね』
「よろしくってなに……」
『そりゃ、仁美のこと頼みますだよ。じゃ、電話ありがと！ おやすみ！』
通話が途切れ、携帯の画面を見ると、翔くんからラインが届いていた。
『今日はありがとうございました
週末改めてゆっくりデートしましょう！』
ストレートな内容に、ふっと笑ってしまった。
『私こそありがとう
楽しみだね！』
シャワーを浴びてベッドに潜っても、疲れているはずなのに今日のことが思い出されてなかなか寝付けなかった。そういえば、翔くんは私を避けている時に眠れなかったって言ってたな、と思い出し、同時に「今日はゆっくり眠れます」と話していたことも思い出す。
もう寝てるかな。ちゃんと眠れたか、明日訊いてみよう……。
暫くそんなことを考えていたが、仕事の疲れもあったせいか、間もなく私は夢に引きずり込まれて行った。