078 シャングリラ後日談
□バリスタ
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「片桐さん! おはよーございます!」
月曜日、出社するとエレベーターホールでいきなり井関くんと鉢合わせた。朝イチの井関くんの元気過ぎる挨拶に、私は胃がもたれそうになった。
「月曜の朝っぱらから、元気だね……」
「月曜の朝っぱらからイライラしてるよりいいでしょ?」
「……まあね」
確かに、イライラって人にうつるもんな。
少し感心してしまった。井関くんは私の胃もたれなんて吹き飛ばすくらいの爽やかな笑顔で切り出して来た。
「ねえねえ、片桐さん。俺すっかり忘れてたんですけど、この前公開された『いのちひとひら』! 坂井達樹出てるじゃないですか! 週末、一緒に観に行きましょうよ!」
もう菜々と公開日に観に行ったけど……。いやいや、じゃなくて。
「なにそれ。デートってこと?」
「まあ、世間一般の言い方だとデートなんですかね? ほんとは昨日おとといのどっちかで誘いたかったんですけど、よく考えたら俺片桐さんのライン知らないことに気付きまして。ってことで、ライン交換しましょう」
「ちょっと! 私まだ行くって言ってないけど!」
「イヤですか?」
井関くんのくるりとした目が真っ直ぐ私を見つめた。
ズルいなぁ、その訊き方……。
「イヤではないけど……」
「よっしゃ!」
「言っとくけど私マメじゃないよ。余裕で既読スルーするからね」
「全然いいです!」
「いいんかい! あと私それもう公開日に観てるからね」
「え!? マジですか!? ネタバレだけは勘弁してください……!」
「それはどうかな〜〜」
「いやマジで! マジでお願いします!」
こうして話していると本当に、可愛げがあっていい子だし、私だって、好きか嫌いかで言えば好きだと思う。それでも、やっぱり年下の子って「可愛い」だけというか、弟なんていないけど、弟のように感じてしまう。まあ、映画デートくらい別にいいかと、この時は軽く考えていた。