078 シャングリラ後日談
□天秤にかける
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内心どう思っているだろうとまたびくびくしていると、大北さんは目を閉じてビールを呷った。そしてはっとしたようにテーブルを見た。
「そういや、話に夢中になって菜々ちゃんの分注文してなかったな。何にする?」
「あ……私はソフトドリンクでいいです……」
「遠慮しなくていいよ。せっかくなんだから」
「いえ……今日のこと、達樹くんに内緒にしてるので。不意に電話でもかかってきて、酔ってるのがバレたら、うまくごまかす自信がないから……」
そう言うと、清水さんが大笑いした。
「あははっ! 酔ってなくても、今電話来たらごまかせる?」
「う……ごまかせないですけど……まだ、シラフの方がマシかと……」
「まあ、そこまで言うなら烏龍茶か何かにしとくか。ほんとに……菜々ちゃんはいつでも坂井のことばっかりだな。まあ、坂井も菜々ちゃんのことばっかりだけど」
何も言い返せずにいると、清水さんがニヤニヤした。
「俺らピエロみたいですね。もう、ここに坂井さん呼び出して事の顛末伝えたら解決じゃないですか!」
「清水さんっ!! 勘弁してください〜!!」
その時、大きな足音がした。体を強張らせると同時に、高崎さんが血相を変えて飛び込んで来た。
「菜々ちゃん! 遅くなってごめん。何事だ!?」
「高崎さん聞ーてくださいよ。もうすぐ坂井さんの誕生日で何したらいーかわかんないって話らしーです」
「はあ〜〜〜!?」
「清水さんっ!! バラすの早い!!」
上着を脱ぎながら、高崎さんがどかどかとお座敷に上がって来た。私の横に勢い良く座り、高崎さんはずいっと顔を私の鼻先に近付けた。
「何だよ、そんなことか! 何で俺には相談ナシなんだよ!」
「え、えーと、ごめんなさい……」
「それで? どうなった?」
「いやまだ何も。それ聞いて大北さんと2人で『あ〜〜〜』ってなってたとこです」
清水さんが右手をヒラヒラと振った。高崎さんは店員さんに生ビールを注文し、頬杖を付いた。
「なるほどなあ……康平は? 誕生日に彼女から欲しい物!」
「ええっ……んー……。菜々ちゃん、毎年手料理作ってるらしいんですけど、俺はそういうの羨ましいですね」
「ほ〜! いいじゃないか。サプライズで物をあげるのって、年々難しくなるからなあ。清水くんは?」
「うーん。俺はまあ、2人でどっか出掛けるとかですかね。飯食いに行くとか、夜景がきれいなとこにドライブに行くとか」
「おお! いいな。そうなんだよな、若い時は物をもらうと嬉しいんだけどな、一緒にいられればそれでよくなって来るんだよな」
サプライズで物をあげるのは年々難しくなる……一緒にいられればそれでよくなって来る……。
今まで物をあげたことはなかったが、もう社会人になったし、達樹くんが欲しいと思う物なら買いたいと思っていたのに、こう言われると尚悩んでしまう。
「高崎さんはどうなんですか?」
「俺も、もう結婚してだいぶ経つからなあ。毎年、家族で食事には出掛けるけどな。まあでも、達樹が喜びそうなアドバイスならできるぞ!」
「えっ!?」
つい身を乗り出した。
「な、何ですか!?」
「ふっふっふ。ちょっと買いに行ってくるから、待っててくれよ」
「え!?」
今来たところなのに、高崎さんは楽しそうに席を立ってしまった。
「……買いに行ってくるって、何でしょう?」
「代わりに買ってくるってことですかね? 高崎さんが選んで……」
「それってプレゼントの意味あるのか……?」
あれこれ話していたが、高崎さんはすぐには戻って来なかった。運ばれて来たお料理を頂きながら、あれからの達樹くんのこと、大北さんの最近のお仕事のことなどを話し、一時間が経とうとする頃に漸く高崎さんが戻って来た。
「お待たせ! 買って来たぞー!」
そう言って高崎さんが掲げた袋はどこからどう見ても、
「それ……ドンキですか!?」
「そう! いやー、いろいろあって目移りしちまった」
「あの坂井達樹にプレゼントするもんがドンキにあるんですか……?」
清水さんがそうっと袋の中を覗いたが、ぱっと顔を上げ、うんうんと頷いた。
「なるほど。これは喜びますね」
「だろ!? さすが清水くん!」
「何ですか? 俺も見ていいですか?」
「おう! 見ろ見ろ!」
大北さんは中身を見て吹き出した。
「あはははっ! 高崎さ……坂井を何だと思ってるんですか!」
「何で笑うんだよ! 康平、お前嬉しくないか!?」
「えー……ちょっと明言は避けさせてもらいます」
三人の様子に、私はなんだか怖くなって来た。
「何なんですか、一体……」
「菜々ちゃん。これ絶っ対達樹喜ぶから!」
袋を受け取り、そっと中を覗いた。目眩がしそうになる。
「高崎さんっ!! なに考えてるんですかっ!!」
「うおっ、怖いな。菜々ちゃん、こういうの嫌い?」
あろうことか、それはサンタクロースの衣装だった。そっと中身を取り出し、パッケージを見て、今度こそ目眩がした。
「スカート短っ! 肩まるだし……! 変態じゃないですかっ! 高崎さんのバカ〜〜!!」
「お〜〜、この反応、さてはこういうこと今までして来てないな。好都合だ! あいつ100パー喜ぶな!」
「こ、こんなの、着れるわけ……」
「お? 高崎義久と大北康平を呼びつけといて断ろうってか?」
「う……」
「菜々ちゃん。俺だったらすげー嬉しいよ。それに、坂井さんもすげー喜ぶと思うよ」
「まあ、坂井は喜ぶかもな。これを用意した菜々ちゃんの気持ちを思ってより喜んでくれるよ、きっと」
「おふたりまで……」
「だって、あいつ前にラジオでコスプレ好きとか言ってただろ。菜々ちゃん、ちょっと恥ずかしそうに着るのがポイントだからね」
「もお〜〜!! 高崎さんっ!!」