078 シャングリラ後日談

□タラレバ
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一時間もすると、仕事の話はいつの間にかプライベートの話になって来る。皆の話を聞きながら、付き合って三年を過ぎた彼氏に思いを馳せた。

「……えっ!? 島田さん、彼氏と別れちゃったの!?」

「うん、先月? 何回かヨリ戻したけど、もうないかなあ……」

「じゃあ合コン行こうよぉ! 地元の友達誘うからっ!」

「絵里香の友達と〜〜? だったら私石ちゃんでいい。石ちゃんも今フリーでしょ?」

「ええっ……島田さん、マジ!?」

「ウソだよっ! 仕事しにくくなるわ!」

「なっ、なんだよ、もうー!」

「あははー! 本気にしたぁ?」

すると、私と同じように黙って話を聞いていた松下くんが、私の方に水を向けて来た。

「加納さんは、彼氏とどーなの?」

「えー? 特に何も……」

「順調? 大学の頃から付き合ってんだよね」

「んー、まあ……」

「もー、菜々、いっつも彼氏の話になるとはぐらかすよねー! いい加減写真見せてよぉ!」

「絵里香にだけは死んでも嫌」

「なんでよ〜〜!!」

「残念だな〜〜俺、加納さんフリーだったら付き合いたかったな〜〜」

ぐっと伸びをしながら、松下くんが本音とも冗談とも取りづらい口調で言った。

「テキトーなこと言って! 松下くん彼女いるでしょ!」

「いるけどさ! 俺も長く付き合ってるし、マンネリっつーか……」

「東さんみたいなこと言わないでよ!」

「そう! 東さんがいるから、部署内の男みんな加納さんに手ぇ出しづらいんだよなー!」

松下くんの言葉に、石野くんも身を乗り出した。

「確かに! 俺も初めて加納さんに会った時はかわいいなーって思ってたけどさー、彼氏と仲いいみたいだし、俺東さんの下についてるから、あんまヘタなこと言えねーんだよなー」

「あれー? 石ちゃん、菜々が好きなの? ざんねーん。フラれちゃったあ」

「なっ……島田さん、からかうなって!」

千紘と石野くんのやりとりを横目に、絵里香が不思議そうに尋ねて来た。

「でもさあ、東さん、乱暴そうではあるけど、顔はかっこいー方だと思うし、背もまあ高いし、仕事もできるし、悪くなくない? 菜々の彼氏、そんなにいい男なの?」

あんまり、私の彼氏の話題にしたくないんだけど。

「うん。東さんに何言われても、私は好きで彼と付き合ってるから」

「へえー。見てみたいなー、菜々の彼氏」

「絵里香にだけは死んでも嫌」

「それさっきも聞いたー!!」

「んじゃー、加納さんの彼氏は、東さんよりイケメンで、東さんより背も高くて、東さんより稼ぎもいいってことか。すげーなあ」

うーん。それだけじゃないな。達樹くんと比べたら、東さんなんてミジンコみたいなもんだけど。

「んー、まー、ご想像にお任せします」

「うわっ! これマジだわ。違うなら違うって言うもん!」

「もういーよ、私の話はっ! 松下くんの彼女の話聞かせてよ!」

「いやも〜話すことねーって〜」

なんだかんだ、同期の皆には気を遣わなくていいし、先輩も交えて飲みに行くよりは楽しめる。終電ギリギリまで騒ぎ、絵里香があんまりうるさいので千円だけ受け取って会計し、皆で駅に向かった。乗り換えでやっと独りになり、そっと携帯を覗くと、『今日は同期の皆と飲みに行くね。絵里香もいるけど心配しないで!』という私のラインに、一時間ほど前に『お疲れ。飲み過ぎないようにね』という返信が達樹くんから届いていた。きゅっと胸が締め付けられ、暫く会ってないな……今度いつ会えるかな、とぼんやり考えながら、『ありがとう。今解散したよ。部屋に着いたらまたラインするね』と返信した。
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