078 シャングリラ後日談

□初デート前日、当日、翌日
2ページ/4ページ

そして翌日。今日のことを考えると昨夜はなかなか寝付けず、無理矢理目を瞑って最近見た夢の内容を考えるという荒技でなんとか眠りについた。五時間くらいは眠ったはずだが、講義の間は欠伸が止まらず、内容も頭に全く入らない。お昼を食べようと思っても、なんとなく食欲も湧かず、目の前のお蕎麦が冷めて行くのを眺めるしかできない。そんな私の様子を、仁美はニヤニヤと観察して来る。

「も〜、あんたってほんっとにわかりやすいよねえ。何回も同じこと言うけど、生娘じゃないんだからさあ」

「生娘みたいにもなるよ……私の立場になってみてよ……」

「それはそーだけど。でも、相手が相手でも、もう何回も会ってるし慣れたでしょ! 今まではただの仕事仲間だったのが、彼氏彼女になるだけだよ」

「『だけ』ってなに……そこの境界線がなんぼほどのもんだと思ってんの……」

「はあ〜〜楽しみ!! もうあと5時間もすれば会えるんだよね!! ねー下着どっち着けるの!?」

「もー!! 人が真剣に悩んでんのにっ!!」

ガチャンとお箸をトレイに置いて頭を抱えても、仁美はただただ楽しそうだ。あと五時間もすれば、会える……。そう考えると、頭の中のモヤモヤがつい口から飛び出してしまう。

「だって……だってさあ……やっぱり、信じられないんだもん! 現実と思えないよ! 夢みたいだよ! あんな人が、私のこと好きって思ってくれて、つ……付き合える、なんて!」

「うんうん」

「全然実感わかないよ! ラインでやりとりしたり、ちょっと電話するくらいじゃ! もう、1ヶ月前のあの、えー、う、……ぎゅってされて、チューしたのだって、感覚忘れちゃうよ!」

「うんうん」

「タチの悪いドッキリかも……私誰かにだまされてないかな? 達樹くん、私と付き合うフリすることでなんか他にメリットとかあるんじゃないかな!? もう、こんなことばっか考えちゃう!」

「うんうん」

「もー!! 聞いてよっ!!」

「聞ーてるよ。それもあと5時間すればハッキリするんじゃない? 今のうちに好き勝手言っときな!」

頬杖を付いて、またニヤニヤと私を見つめる仁美に、完全に毒気を抜かれてしまう。俯くと、お蕎麦は大分伸びてしまっていたが、なんとか全部食べることができた。昼からの講義も午前中よりは真面目に受け、戦場に向かうような気持ちで私は帰路に就いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ