078 シャングリラ後日談
□初デート前日、当日、翌日
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平日のこの時間だと、ショッピングモールは比較的空いている。達樹くんはいつも、女の子の好きなファッションはとインタビューされても、似合っていれば何でもいい、などとふわっとしたことを答えている。お金はないながらも、いつものファッションの他にも、私に似合うものを考えながら片っ端から試着したが、何を着ても仁美は同じリアクションだ。
「うんうん。かわいいかわいい。あんた素材がかわいいから何でも大丈夫だよ」
「いや適当すぎでしょ……そんなわけないわ! 普段、あの人の側にどんな女の子がいると思ってんの!」
「そりゃ、カメラ回ってれば女優やらモデルやらがいるかもしんないけど。演者じゃない普通のスタッフとか、事務所にも普通の事務員とかがいるでしょ。菜々は選んでもらってんだから心配いらないって!」
「そうかなあ……それでも心配……」
「さ、服はそんくらいでいーでしょ。一番大事なメイン行くよ!」
「えっ? なに?」
「アホか! 下着だよ下着!」
下着!!!
「えっ……ええ……!?」
「なに、そのリアクション。まさか必要ないなんて思ってないでしょーね?」
「ええ……そんな……そんなことになるかなあ?」
「なるに決まってんだろ!! 健全な23歳の男子を何だと思ってんの!!」
「ちょっ、待っ、こ……怖くなってきた……」
「うん、そりゃね。私も、菜々の立場だったら怖すぎる。逃げ出したいわ」
「ええ〜〜怖い!! 私、胸ないよ〜〜嫌われる!?」
「嫌われはしないと思うけど……ガッカリはするかもね」
「あーーーー!!!」
「ま、服着てても胸ないのはある程度わかるから。もうバレてるよ」
「あーーーー!!!」
「だからちょっとでもかわいい下着買お! ムダ毛とかちゃんと処理してる!?」
「クリニック行ってるから、大丈夫だけど……」
「おっしゃ。わっ、もうこんな時間! 早く早く!」
殆ど引きずるように、仁美は私を引っ張って歩き出した。明日のことを軽く想像しようとしてみたが、考えるだけでも爆発しそうだ。
「やだ〜〜もう怖い〜〜ほんとに逃げ出したい〜〜」
「いやわかるけど……明日もしなかったとしても、いつかはそうなるんだから、もう腹くくるしかないよ!」
「う〜〜〜……」
ぐずぐず言っていると、仁美は足を止め、ぐるりと私の方に向き直った。
「菜々。わかってるとは思うけど、古い下着は全部捨てて、新しいのに替えなきゃダメだよ!」
「ぜ……全部!? そんなお金ないよ!」
「あー……まあ、それなら、ちょっとずつでも替えていくの! 達樹くんと会うときに、武史くんと付き合ってたときも使ってたよーな古い下着つけるのは言語道断だからね!」
「あう……わかったよお……」
店に着くと、服を見ていた時とは打って変わって仁美は真剣な顔付きだ。まるで自分の下着を選んでいるかのようだ。
「あー悩む……こういう、盛れる! みたいなヤツの方がいいのかな? いや詐欺だと思われてもアレだしな……」
「ちょっと……着るの私なんだけど! 置いてかないでくれる?」
「菜々は肌白いから、黒とか赤とかの方が映えるかなあ」
「ええっ!? めっちゃやる気まんまんみたいに思われない……?」
「あー、んー、それもそーかな……確かに。勝負下着って紐パンとかのイメージだけど、いきなりそんなの着けてたら引かれるか」
「いきなりじゃなくても紐パンなんて無理!!!」
「あっ! 見てこれ! めっちゃ透けてる〜〜これいいじゃん!」
「バカじゃないの!!?」
ギャーギャー騒ぎながら、とりあえず淡いピンクと水色の二セットだけを購入した。どちらを着けるかは、もう明日の自分の気分に任せよう。
「あー疲れた……今からバイトがんばれない……」
「なに寝言言ってんの! 明日はもっと疲れるかもしんないのに」
「も〜〜やめて!! 明日のこと考えさせないでっ!!」
「ほらっ、時間ないよ! 早く行っといで!」
「う〜〜〜」