078 シャングリラ後日談

□初デート前日、当日、翌日
1ページ/4ページ

平日のこの時間だと、ショッピングモールは比較的空いている。達樹くんはいつも、女の子の好きなファッションはとインタビューされても、似合っていれば何でもいい、などとふわっとしたことを答えている。お金はないながらも、いつものファッションの他にも、私に似合うものを考えながら片っ端から試着したが、何を着ても仁美は同じリアクションだ。

「うんうん。かわいいかわいい。あんた素材がかわいいから何でも大丈夫だよ」

「いや適当すぎでしょ……そんなわけないわ! 普段、あの人の側にどんな女の子がいると思ってんの!」

「そりゃ、カメラ回ってれば女優やらモデルやらがいるかもしんないけど。演者じゃない普通のスタッフとか、事務所にも普通の事務員とかがいるでしょ。菜々は選んでもらってんだから心配いらないって!」

「そうかなあ……それでも心配……」

「さ、服はそんくらいでいーでしょ。一番大事なメイン行くよ!」

「えっ? なに?」

「アホか! 下着だよ下着!」

下着!!!

「えっ……ええ……!?」

「なに、そのリアクション。まさか必要ないなんて思ってないでしょーね?」

「ええ……そんな……そんなことになるかなあ?」

「なるに決まってんだろ!! 健全な23歳の男子を何だと思ってんの!!」

「ちょっ、待っ、こ……怖くなってきた……」

「うん、そりゃね。私も、菜々の立場だったら怖すぎる。逃げ出したいわ」

「ええ〜〜怖い!! 私、胸ないよ〜〜嫌われる!?」

「嫌われはしないと思うけど……ガッカリはするかもね」

「あーーーー!!!」

「ま、服着てても胸ないのはある程度わかるから。もうバレてるよ」

「あーーーー!!!」

「だからちょっとでもかわいい下着買お! ムダ毛とかちゃんと処理してる!?」

「クリニック行ってるから、大丈夫だけど……」

「おっしゃ。わっ、もうこんな時間! 早く早く!」

殆ど引きずるように、仁美は私を引っ張って歩き出した。明日のことを軽く想像しようとしてみたが、考えるだけでも爆発しそうだ。

「やだ〜〜もう怖い〜〜ほんとに逃げ出したい〜〜」

「いやわかるけど……明日もしなかったとしても、いつかはそうなるんだから、もう腹くくるしかないよ!」

「う〜〜〜……」

ぐずぐず言っていると、仁美は足を止め、ぐるりと私の方に向き直った。

「菜々。わかってるとは思うけど、古い下着は全部捨てて、新しいのに替えなきゃダメだよ!」

「ぜ……全部!? そんなお金ないよ!」

「あー……まあ、それなら、ちょっとずつでも替えていくの! 達樹くんと会うときに、武史くんと付き合ってたときも使ってたよーな古い下着つけるのは言語道断だからね!」

「あう……わかったよお……」



店に着くと、服を見ていた時とは打って変わって仁美は真剣な顔付きだ。まるで自分の下着を選んでいるかのようだ。

「あー悩む……こういう、盛れる! みたいなヤツの方がいいのかな? いや詐欺だと思われてもアレだしな……」

「ちょっと……着るの私なんだけど! 置いてかないでくれる?」

「菜々は肌白いから、黒とか赤とかの方が映えるかなあ」

「ええっ!? めっちゃやる気まんまんみたいに思われない……?」

「あー、んー、それもそーかな……確かに。勝負下着って紐パンとかのイメージだけど、いきなりそんなの着けてたら引かれるか」

「いきなりじゃなくても紐パンなんて無理!!!」

「あっ! 見てこれ! めっちゃ透けてる〜〜これいいじゃん!」

「バカじゃないの!!?」

ギャーギャー騒ぎながら、とりあえず淡いピンクと水色の二セットだけを購入した。どちらを着けるかは、もう明日の自分の気分に任せよう。

「あー疲れた……今からバイトがんばれない……」

「なに寝言言ってんの! 明日はもっと疲れるかもしんないのに」

「も〜〜やめて!! 明日のこと考えさせないでっ!!」

「ほらっ、時間ないよ! 早く行っといで!」

「う〜〜〜」
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ