078 シャングリラ後日談
□君に贈る花
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そうこうするうち、会場に到着した。高校の同級生たちに、一斉に囲まれた。
「あーっ! 女優が来たあ!」
「じょ、女優……みっちゃん、会うなりやめてよっ!」
「菜々ちゃん、仁美ちゃん、久しぶりー!」
「千晴ちゃんー! 元気してた!?」
「元気元気! ねー、坂井達樹ってどんな人? 生でもイケメン!?」
「めっちゃイケメン! しかも死ぬほど優しい! 最後まで慣れなかったよお」
「なにそれ〜〜めちゃくそうらやましー!! 紹介してよっ!!」
「ムリに決まってんじゃん! ごめんだけど、もうそーいうの言われ飽きてんの!」
はしゃいでいると、後ろから声を掛けられた。
「菜々」
振り向くと、それは高校時代の元彼だった。
「あ、正くん……久しぶり……」
「久しぶり。元気そうだね」
高校の時より、髪が伸びている。メッシュも入っていてゆるいパーマがかかっていて、顔立ちはそんなに変わっていないのに、印象は随分と変わったように感じた。
「菜々、すごいね。坂井達樹と舞台なんて。びっくりしたよ」
「う……ん、私も、びっくり。未だに信じられない」
話していると、横から腕をぐっと捕まれた。仁美が心配そうな表情で私を見つめている。
「あ……私、もう行くね。元気そうでよかった」
「菜々。あの……あの時はごめん。ひどいことしたって、反省してる」
正くんとは一年ほど付き合ったが、受験勉強が忙しくなり会えなくなって暫くしてから、バイト先の女の子が好きになったから別れて欲しいと、ラインで切り出された。当時はつらかったが、もう過ぎたことだ。
「大丈夫だよ。わざわざありがとう。今もあの人と付き合ってるの?」
「ん……まあ。菜々は? 彼氏できた?」
「あ、ううん……今は……」
「そっか……本当、ごめん。これだけ、言いたくて」
「気にしないで。じゃあ、元気でね」
手を振ると、正くんは去って行った。すると、激しく脈打つ心臓に気が付いた。
ああ……緊張した。なんか変な感じ……。
元カレに会うって、こんな感じなんだ。でも……好きだった気持ちを思い出すかな、って思ったけど、全然そんなことなかったな。よかった……。
そんなことを考えていると、仁美がまた私の手をぐっと引いた。
「ねえ、菜々。さっきから思ってたけど、彼氏がいること、内緒にするつもりなの?」
「え? ん、うん……」
「何でよ!?」
「だって……」
「あー!! 加納じゃん!!」
大声に驚いて振り向くと、十人ほどの男の子がこちらに寄って来た。
この顔ぶれは、確か中学の……。なんとなく見覚えがある顔、そうでない顔。名前も、思い出せる子、そうでない子、様々だった。
「うおっ、マジだ! すげーきれいになってんじゃん!」
「何言ってんだよ。加納はあん時から可愛かったって!」
「すげーよなー、坂井達樹と舞台やるなんてさ! ねー、今彼氏いんの?」
「メシでも行こうよ! 片桐と一緒に合コンでもいいし!」
うわ、めんどくさっ。
『シャングリラ』の記者会見の翌日を思い出してしまった。
軽くうんざりしていると、聞き覚えのある声が割り込んで来た。
「お前ら、菜々に絡むなよ」
男の子たちを掻き分けて現れたのは、中学時代の元彼だった。
あーーー、めんどくさああ!!
「よおー、菜々。久しぶり!」
「はあ……」
「お前なあ、何ラインブロックしてくれてんだよ!」
いや既読つけてないだけで、ブロックなんてしてないけど。
でももうブロックしよ。このあとすぐしよ。
「仁美、行こう」
「なんだよ、つれねーなあ。ちょっと舞台に出たら芸能人気取りかよ!」
……はああ?
「優介、いい加減に……」
「調子乗ってんじゃねーよ! お前がフリーだったら、また付き合ってやんなくもなかったのによ」
「忘れたの? 私、あんたのことフッたんですけど」
「菜々、やめときな。もう行こ!」
仁美に強く腕を引かれた。しかし、そう簡単に腹の虫は治まってくれない。
「あんたなんかこっちから願い下げだから。二度と話しかけないで」
「へーえ、言うじゃん。あんな大舞台に出て、綺麗なかっこしても、中身全然成長してねえな」
「こっちのセリフ! 相手してほしかったら、素直にそう言えば?」
私の言葉に、優介は真っ赤になった。
「なっ……こいつ!」
「菜々、あんたこそいい加減にしなっ! 行くよ!」
仁美に引きずられ、漸くその場を離れた。
あーーー!!! もーーー、なんなの、あいつ!!!