078 シャングリラ後日談

□君に贈る花
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そして、式当日。珍しく私より先に待ち合わせ場所に来ていた仁美の姿を見つけると、思わず大声を上げてしまった。

「わあー!! 仁美〜〜!!」

「きゃ〜〜〜!! 菜々、きれい!!」

「仁美こそきれいだよ!! めっちゃ似合う〜〜きれいな赤!!」

「いや、菜々、きれー!! 隣に立ちたくない……」

「ぷふっ。なんじゃそりゃ!」

仁美の振袖は目を引く赤色で、色鮮やかな四季花が散りばめられている。中でも一際目立つ真っ白な大輪の牡丹が美しい。

「すっごい似合うよ。お花がいっぱい! きれーい。かわいい!」

「あ、ありがと……。菜々もきれいだよ。菜々らしいね、この色」

私の振袖は、深い緑色に細やかな四季花が施されたものだ。仁美のものに比べると、少し色合いが暗いように感じてしまう。

「そうかなあ。選んだ時は一目惚れだったんだけど、今こうして見たら、赤もいいね。もっと華やかな色にすればよかったかなあ」

「えー!? すっごいきれいだよ! 『シャングリラ』の時の、旦那様の衣装みたいな色で素敵じゃん!」

はっ……。

「よ、よく覚えてるね、そんなの……」

「だから、菜々らしいって言ったんだよ! それ意識して決めたんじゃないの?」

「これ選んだの、舞台のオーディションのずっと前だよ! たまたまだよ!」

「え〜〜!? じゃあ運命じゃん!! すてきーー!!」

「う、運命……。もう! 行こっ!」

歩きながら、先日の達樹くんとのやりとりを仁美に話した。達樹くんは成人式に出席しなかったらしいと言うと、仁美は目を丸くした。

「そうなんだ。まあ、そりゃそっかあ」

「有名人は大変だよね。ちょっと気の毒になっちゃった」

「あんた、他人事みたいに言うけどさ。菜々だって今日は大変だよ?」

「え? 何が?」

「『シャングリラ』のあと、初めて地元の同級生に会うんだよ。囲まれるよたぶん」

あ……なるほど。

「……そういえば、達樹くんも『今日は大変だと思うよ』って言ってた……そういうことかあ」

「ノンキだなあ……もっと危機管理っていうか、そのへんの意識を……」

「だって、私の中ではもう終わったことなんだもん!」

「まあ、できるだけそばにいるようにするけど。松島くんとか、根岸くんとかに絡まれるかもよ」

松島くんは中学時代、根岸くんは高校時代に付き合っていた男の子だ。名前を聞いて、久しぶりに思い出した。

「そうかなー。2人とも後味悪い別れ方してるし、私のことなんて忘れてるんじゃないかなあ」

「忘れて……って、根岸くんなんて別れたの、つい2年前じゃん……」

「でも、正くんには私フラれたんだよ。新しい彼女いるでしょ。優介は、会うの気まずいなあ……えらいもんで、あんま顔思い出せないわ」

「松島くん、ひどかったよね。なんか、武史くんといい、菜々の元カレ、問題児ばっかだな」

「ちょっと! アンタもひどいな!」

「だってそうじゃん。まー、その分今の彼氏が充分すぎるほど埋めてくれてると思うけど」

「ん、うん……確かに。……あっ!」

達樹くんのことを考えた時、はっと思い出した。

「そういえば今日、達樹くんが私たちふたりを車で東京まで送ろうかって言ってくれてたけど……」

「いやっムリ!!! 緊張しすぎて死ぬ!!!」

言い終わる前に、仁美は大声を上げて私を遮った。

「だよね。言うと思った。断っといたから」

「あ、ありがと。さすが。まだ死にたくない……」

「ぷふっ。わかる。私だって緊張するもん!」

会場が近づくにつれ、友達に声を掛けられることが増えて行った。遠くからこちらを指してヒソヒソ話をしている人も見かけた。なんか懐かしいな、この感じ……。

「あっ! 菜々ー! 仁美!」

「わー! 梨央! 友加里ー!」

高校時代、いつも仁美と四人で一緒にいた友達が私たちを見つけてくれた。

「久しぶり〜〜元気!? あーん、菜々、きれいすぎ!!」

「元気だよ〜〜ありがとう! 梨央もきれい! おんなじ緑ー!」

「でも、菜々のは青緑っていうか、濃い色できれいだね。私のは明るすぎたかなあ」

「そんなことないよ。似合ってる! 友加里もきれい! 黒もいいなあ。シックだね!」

「そうかなあ。ありがと! 仁美のは派手だね〜」

「だって成人式だもん! 赤ならおめでたいかなーって……」

挨拶もそこそこに、梨央が楽しそうに切り出して来た。

「はー、それにしても。菜々が芸能界デビューしちゃうなんてびっくり!」

「ちょっ……私、芸能界入んないってば!」

「それでも、メディアに露出して、顔と名前出して、あの坂井達樹と舞台やるなんてすごいよ!」

「1回、仁美と3人で観に来てくれたよね。ほんとありがと!」

「菜々、かっこよかったよ。坂井達樹に負けてなかった!」

「なっ……ウソつけっ!」

友加里の言葉に、つい大声を出してしまう。しかし、友加里は気に留めずに飄々と続けた。

「菜々が『今年は一緒に海行けない』って言うから何かと思ったら、まさか舞台稽古だったなんてなあ」

「菜々、今年は4人で行こーね?」

「もちろん! 去年はごめんね。楽しみ!」

「何言ってんの。すごくいい舞台だったよ。いい経験になったね」

「友加里ってば、私に黙って1人で何回か観に行ったんでしょ!? 声かけてよ〜〜!」

「だって梨央はあん時デートばっかで忙しかったじゃん」

「あー!! それ言わないでよっ!!」

「え、なに? 梨央、別れちゃったの?」

「うん……年末に。仁美は?」

「ずーっとフリーだよ。いい人いたら紹介して!」

「じゃあ、今ってみんな彼氏いないんだ。菜々もあの怖い人と別れたんでしょ?」

友加里の一言に、口ごもってしまった。彼氏ができたということを、私はなんとなく、仁美以外の人には話せていないからだ。

「ん、うん……舞台の稽古中に……」

「合コンしよーよ! 菜々ならよりどりみどりだよ!」

「え!? 私、そんな急いでないよお」

「私も別に、今は彼氏いらない」

「友加里はずっと同じこと言ってんじゃん! 私も彼氏ほしいよ〜〜梨央、2対2でどう!?」

「いやせめて3対3でしょ! どっちか来てよ〜〜!」
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