078 シャングリラ後日談

□君に贈る花
2ページ/9ページ

「……成人式の二次会って、同窓会みたいなやつだろ?」

「え? うん、まあ……そうなのかな」

「中学、高校の元カレ来るんじゃねえの?」

………。

ん?

「なに、なに? 心配してるの?」

「当たり前だろ……。そんなん、よく聞く話じゃん」

「坂井達樹より魅力的な男がいるわけないよ!」

「いや菜々ちゃんがそう思ってくれてても……あっ! あいつも来る!? ライターの奴!!」

「ら、ライター……。武史は5つ上だし、地元も違うし、来ないよ!」

首を振ると、達樹くんは眉根に皺を寄せた。

「……5つ……。あいつ、俺より年上だったの? 信じらんねえな……」

「もう! 武史のことはいいよっ! 他の元カレだって、来るだろうけど、別にしゃべる気もないし……」

「本当? 『シャングリラ』の記者会見の後とか、舞台始まった後とか、連絡来たりしてなかった?」

「え、えーと、来てたけど! でも、達樹くんとお付き合い始めてからは、ラインとか来ても放置してるし、既読つけてないから!」

ここまで言っても、納得いっていなさそうな顔をしている達樹くんを見ていると、つい吹き出してしまう。

「も〜……信じてくれてないの?」

「信じてるけど! そうじゃなくて、もし向こうにまだ気があったら……」

「何か言われても、ちゃんと断るから大丈夫だよ!」

私の言葉が耳に入っていないのか、達樹くんは額を手で覆ってとんでもないことを言い出した。

「はあ……もう……できることなら、ずっとついて回りたい。手えつないで」

「ぷふっ。何言ってんの!?」

また吹き出してしまった。達樹くんは顔を上げたが、その表情は至って真剣だった。

「菜々ちゃん。当日、たぶん大変だよ。覚悟しておかないと」

「え!? 何する気!?」

「いや俺じゃなくて。当日、できるだけスマホ気にしてて。何時に行けるかわかんないから、体空いたら電話する。振袖姿見たらすぐ帰るから、お願い!」

「もう……わかったよ……。たぶん、たくさん写真撮るだろうし、電話はすぐ気付けると思うけど……」

今度は私の方が目を伏せてしまった。今から、当日のことが気に掛かってしまう。小さく息をつくと、達樹くんがまたとんでもないことを言い出した。

「当日中にこっちに戻るんなら、帰り送ろうか?」

「い、いいよ! 仁美と帰るから!」

「なんだよ。仁美ちゃんも乗って行けばいいじゃん」

「だめだめ! あいつ死んじゃうよ!」

「ぶはっ! なんでだよ!」

「坂井達樹といきなり車で2時間も移動なんて、そんなの……」

私だって、たぶん平静でいられない……。

言葉を詰まらせると、達樹くんは手を首の後ろに回して言った。

「まあ……よく知らない男の車にいきなり乗るなんてイヤだよな。でも、仁美ちゃんがよければ、全然送るから言っといてよ」

「あ、ちが……そういうわけじゃ……」

よく知ってはいるよ、ある意味。

そう思いながらも言い出せずにいると、達樹くんはソファに深く座り直して遠くを見つめた。

「……うらやましいな。俺は成人式、出てないから」

「え! ……あ、お仕事で出れなかったの?」

「うん、それもあるし、同級生とか元カノに会いたくないのもあった。仕事も増え始めてた頃だったから、騒がれたくなかったし。夜遅く地元帰って、仲いい友達と軽く飲んだくらいだったな」

「そうなんだ……」

達樹くんの横顔は、どこか寂しそうに見えた。悪いことなんて何もしていないのに、なぜか申し訳ない気持ちになって来る。なんとなくモヤモヤとした気持ちを私に抱かせながら、成人式までの数日間が過ぎて行った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ