078 シャングリラ後日談
□VACATION!
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「……ねえ……ほんとに、本気なの?」
「本気だって。大丈夫、盆明けの平日なら、人少ないよ」
「でも! ついこの前週刊誌に撮られて、会えなくなったばっかしじゃん!」
「いいの。次に撮られても、今度は事務所の言うことなんか聞かないって決めたから。フツーに会いに来るし、菜々ちゃんも会いに来て」
「なっ……ダメだよっ!」
「大丈夫だって! 10代の頃は、俺もよく地元の友達と海行ってて、そこは人少なかったから、そこに行こう。その代わり、海水浴場って感じじゃなくて、波も大きいし、沖に行くと危ないけどね。ちょっと遊ぶだけで、そんながっつり滞在しないから」
……一応、ちゃんと考えてくれてるんだ。
そこまで冷静さを失ってはいないようで、少しだけ安心した。すると、達樹くんが顔を上げて、私をまじまじと見つめた。
「でも、菜々ちゃん、全然日焼けしてないね」
「めちゃくちゃ日焼け止め塗ってたから。絶対焼けたくないから!」
「あははっ! 俺も焼けたら撮影に影響出そうだし、ちゃんと対策しなきゃなあ」
もう一度携帯に視線を落とし、達樹くんが独り言のように呟いた。
「バイクで行くかなあ……いや……危ないしやっぱ車かな」
「達樹くん、バイク乗れるの!?」
「中免だから、400ccまでだけどね」
「ええ……すごい!」
「兄貴が乗ってて、うらやましくてさ。16になってすぐ免許取って、お下がりもらって、よく乗ったな。オフロードだったから、長距離走るときつかったけど」
「オフロード?」
「えーと……どう言やいいかな……スクーターじゃなくて、砂利道とか舗装されてない道路も走れるやつ。仮面ライダーが乗ってるような感じの。街乗りに向いてないから、あんま長く走るとケツ痛くてさ」
懐かしそうにする達樹くんに、無意識に言葉が漏れていた。
「……達樹くんって、ほんっとに欠点ないね」
「え、え!? なんで!?」
「なんでもできて、すっごいかっこいい……バイク乗ってるとこ、見てみたい」
「いやっ、こんくらいで……免許取ったら、誰でも乗れるよ! それに、俺も長いこと乗ってないから」
そうは言っても、バイクなんて乗ったことも触ったこともない私には、未知の世界だ。
うっとりしていると、達樹くんが興味深そうに尋ねて来た。
「菜々ちゃんは、車運転する機会あるの?」
「う……ない。私、5月生まれだから、高3の夏休みにすぐ免許取ったけど……お父さん、家の車運転させてくれなくて、自分で中古の軽でも買って練習しなさいって言うから、どペーパーなの。免許取ってから公道走ったの、2〜3回しかない……」
そう言うと、達樹くんは大笑いした。
「そうなんだ。え? じゃあ、友達と海行った時は、どうしたの?」
「……高校の友達の1人が車出してくれて、私以外の3人が交代で運転してくれた。私も一回だけ運転したことあるけど、もう菜々は駐車場代とガソリン代と高速代多めに出してくれればいいって言われて、すぐ交代させられた」
「あはははっ!」
達樹くんはお腹を抱えて笑い出してしまった。乗らないと乗れるようにならないとはわかっているが、自分はともかく、人の命も危うくしてしまう行為は、できるだけ避けたい。
「あー、涙出てきた。それなら、俺の車で練習すればいいよ」
「えっ!? あんなでっかい車、ムリだよ!」
「最初にデカいので練習すれば、次からどんなのに乗っても感覚つかめるから、いいんだよ。車高も高いから、周りが見やすくていいよ」
「ふうん……? でも……ぶつけたりしたら……」
「いいよ、あれも長いこと乗ってるし、ずっと乗るつもりはないから。軽とかコンパクトよりは頑丈だから、多少何かあっても、危なくないよ」
「うー……機会があったらね……」
「うわ! やる気ない人の言い方!」
「だって! さすがにいきなりあんなの乗って公道出れないよ! まずは田舎の広い駐車場とかで……」
「あはは! 確かにそうだね」
そう言いながらも、達樹くんは良さそうな日を見つけたらしく、私に携帯を返しながら、自分の携帯には予定を打ち込んでいるようだ。
「ここ、印つけたから。菜々ちゃんは休みで、次の日はバイト夕方からだから、この日にしよう」
「え、達樹くんは?」
「俺は夕方から仕事。だから、ゆっくりは遊べないけど……」
「全然いいけど、達樹くん、しんどくないの?」
「次の日、俺も昼からだから、ゆっくり寝れるし大丈夫だよ。菜々ちゃん、仁美ちゃんたちと海行った日と、同じ水着着てね。見たいから」
「もう……なにそれ! そんないいもんじゃないよっ!」
「いいもんかどうかは俺が決めることだから! 約束ね!」
「うー……わかったよお……」