078 シャングリラ後日談

□想いを形に
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横になり、携帯のアラームの時間を昼に設定し直したが、鍵まで渡してくれた菜々ちゃんのことを思うと、彼女と同じ時間に起きて、せめて見送りたいと思った。しかし、間もなく夢に引きずり込まれ、翌朝、俺は思いっ切りアラームの音で目が覚めた。

「ああ……」

当たり前だが、部屋に菜々ちゃんはいない。十二時、今頃菜々ちゃんは昼休みかなと考えながら、体を起こした。

あの後すぐ寝たとしたら、半日くらい眠ってたんだな……。

菜々ちゃんの倍は寝てるな、と考えると、彼女に申し訳ない気になった。トイレに立とうとすると、テーブルに食事を見つけた。傍らに、手紙が添えられている。

『達樹くんへ
おはよう! ちゃんと時間通りに起きれた?
もし余裕があったら食べてね!
お仕事がんばって! 菜々』

可愛らしい菜々ちゃんの字に、胸が締め付けられた。皿には、バターロールの切り込みにウインナーと卵とレタスが挟まれたものが二つ乗っていた。

菜々ちゃんだって寝れてないのに、わざわざ俺のために……。

携帯を手に取り、『今起きたよ。朝ごはんと手紙ありがとう!いただきます!』と菜々ちゃんにラインした。すぐに既読が付き、『行ってらっしゃい』のスタンプが送られて来た。やっぱり昼休みなんだな……。

鞄を漁り、手帳を取り出した。メモ帳のページを破り、俺も菜々ちゃんに手紙を書いた。

『菜々ちゃんへ
お帰り。今日もお疲れ様。
カギも朝ごはんも、本当にありがとう。
好きだよ tatsuki sakai』

名前の代わりにサインをした。普段、好きだと口にするのも、ラインで送るのも特に抵抗はないが、字で書くのは思いの外照れ臭い。それでも……菜々ちゃんに読んで欲しい。

自分で書いておいて、その字が目に入るのが耐え難く、急いで支度をして、菜々ちゃんのご飯を頬張った。



『カニバルゲーム』の取材をいくつかこなし、一息つけるようになったのは夜だった。車に戻り携帯を見ると、菜々ちゃんからラインが届いていた。

『今帰ってきたよ!
お手紙ありがとう!
元気出たよ。すっごくうれしい!』

その文面に、俺の方が嬉しくなってしまう。ラインが届いていたのは十九時半だった。三十分前か……。

『こちらこそありがとう!
俺もすげー嬉しかったよ。
今日は早めに休んでね!』

返信すると、すぐに既読が付き、『大好き!』という猫のスタンプが送られて来た。

はー……可愛い……。

もう仕事は一段落付いたので、菜々ちゃんに会おうと思えば会えるが、さすがに今日は休ませてやらないとかわいそうだ。キーケースを取り出して、菜々ちゃんの部屋の鍵をぼうっと眺めていると、再びラインが届いた。慌てて確認すると、大北さんだった。

『お疲れ。お前以外のメンバーは今日クランクアップだったから、打ち上げに来いよ。栗原さんは来ないらしいから』

その内容に、

『お疲れ様です。時間と場所教えて下さい!行きます』

と返信し、キーケースをしまい、代わりに手帳を取り出した。中に挟んでおいた菜々ちゃんからの手紙を眺める。

俺が買ったのではない花束や、鍵や手紙……。俺も菜々ちゃんも、こんな小さなもので、嬉しくなるし、満たされてしまう。鍵を渡してくれた時の、菜々ちゃんの何とも言えない表情が思い浮かぶ。

あの菜々ちゃんが、合い鍵を渡してくれるくらい、俺を信頼してくれている……。その気持ちを、裏切らないようにしないとな……。

大北さんが店の場所をラインしてくれたが、今日は遅くなり過ぎないように帰ろうと決意して、車のエンジンを掛けた。



END
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