078 シャングリラ後日談
□想いを形に
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「やっぱ落ち着かない……大丈夫かなあ?」
「大丈夫だよ。あれを撮ったのは栗原さんの差し金だったんだから」
「さ、差し金……そうだけど……」
栗原さんの名前を出したことで、ふと思い出した。
「栗原さん、菜々ちゃんにごめんなさいって伝えてって言ってたよ」
「え? そーなの?」
「自分も、心から好きだって思える人を探すってさ」
「そっか……。二度とこんなことしないんなら、もういいけどね。私より、迷惑をかけた人は、他にいるはずだし」
そう言って、菜々ちゃんは複雑そうに俺を見た。
本当に優しいな、菜々ちゃんだって散々な思いしたのに……。
「そういや、栗原さんが写真送ってくれてたんだ。見てみてよ」
「あ……脅しに使われたやつ?」
「そう。ほら、めっちゃ良くない?」
携帯を菜々ちゃんに渡すと、彼女は少し見るのが不安そうな様子だったが、見ると、ふっと笑ってくれた。
「ほんとに、2人とも笑ってる……」
「いいよね。普段ツーショットとか撮らないもんなあ……」
「これいつだったかなあ? 最近だよね?」
「うん、撮影始まってからっぽいな。菜々ちゃんを部屋に送った時かな……。そう考えたら、マジで俺に好意持って、そんでいろいろ調べて、これもカメラマンに撮らせたんだろうなあ……」
そう言うと、菜々ちゃんはわかりやすく頬を膨らませた。
「まー、私の方が好きだけどねっ!」
「ぶはっ! かわいっ。わかってるよ」
「可愛い」と言うと、菜々ちゃんは恥ずかしそうに小さくなったが、思い出したように、また頬を膨らませた。
「……そういえば。あの映像で、私のこと『普通じゃない』って言ってたよね!」
……え!?
「いっ……言ったかな?」
「言ってたよ! 『俺の彼女は普通じゃないから、こんなことで取り乱さない』みたいなこと!」
「あー……」
言われてみれば、言った気もする。
「いや、いい意味でだよ。いい意味で」
「いい意味なわけないよっ! 人のこと何だと思ってんの!」
「いやマジでいい意味だって! そういうとこが好きってことだって!」
「調子いいんだから! フツーに取り乱すし!」
「あー……それはごめん。お詫びに、今度清水さんと飯でも行こうよ。菜々ちゃんに会いたがってたから」
「え! 行きたい! 私も会ってお礼したいから!」
そこで飲み物が運ばれて来た。今の今まで怒っていたくせに、菜々ちゃんはぱっと笑顔になり、携帯で写真を撮ってから口に含んだ。
「わーい! キャラメルチャイ! あまー! おいしい!」
菜々ちゃんのチョイスは、俺なら絶対に選ばないものばかりだ。
「めちゃくちゃ甘そう……」
「おいしいよ。甘いのキライじゃないよね?」
「カフェに来て甘い飲み物は頼まないなあ……ジュースとかならともかく」
「ちょっと飲んでみて? おいしいよ!」
「ええ……」
グラスを押し付けられ、恐る恐る口に含むと、確かに甘いが、口には合った。
「あ。うま!」
「でしょ!」
無意識にごくごくと飲んでしまい、菜々ちゃんが悲鳴に似た声を上げた。
「あーっ! 飲みすぎっ!」
「あ。ごめん」
「やだー! 減ってる! すごい減ってるっ!」
暫く、菜々ちゃんは悲しそうにグラスを見つめていたが、そのうちに笑い出した。
「ふふ……」
「どしたの。怒ったり笑ったり……ごめんって!」
「あはは。いいの。もう……めっちゃ楽しい。すっごい幸せ!」
また胸が締め付けられた。カフェで飲み物を飲む、たったこれだけのことさえ、普段ならできない。
「俺もすげー楽しい……幸せ。菜々ちゃん、ありがとう」
「私こそありがとう。まだごはん来てないのに、すごい満たされちゃった」
「早っ! がんばって葉っぱ食べてよ」
「葉っぱって言わないでよっ!」