078 シャングリラ後日談

□羨望 達樹サイド
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翌週、事務所に顔を出すと、遠野さんに呼び止められた。会議室に来るように言われ、扉が閉まった瞬間、遠野さんは呆れたように溜め息をついた。

「達樹、しっかりしてくれよ。また撮られたぞ」

「えっ!?」

遠野さんはテーブルに記事を放り投げた。奪うように記事を手に取って見ると、この間、結愛ちゃんとカフェで二人でいるところの写真が載っていた。

「なんだ……彼女じゃないんですね」

「なんだ、じゃないだろう。どうなってるんだ。お前、加納菜々と付き合っていたんじゃなかったのか?」

「そうですよ。栗原さんとは、別に何もありません。友達でもないです」

「お前……ひどい言い草だな。まあ、事実なんだろうけど……こんな写真じゃ、何も言えんしな」

「チーフはなんて言ってますか?」

「事務所としては、まあ、当たり障りのない、『仲の良いご友人の一人です』といったコメントを出すつもりのようだな。向こうの事務所は、『プライベートは本人に任せています』というコメントを出すようだが」

「なんすか、それ! そんな誤解生むようなコメント……」

そう言いながら、俺も記事をテーブルに投げ捨てると、遠野さんは深く息をつきながら、ソファにどさりと腰掛けた。

「……達樹、実はな。この写真、向こうの事務所の専属カメラマンが撮ったようだっていう情報が入って来てる」

「え……!」

「お前、このカフェに、栗原結愛から誘導されて入ったんじゃないか?」

言われて、あの時のことを思い出そうとしたが、心当たりはない。

「いや……俺が先に中にいて、後から栗原さんが入って来た形ですね」

「そうか……どちらにしろ、向こうは少々悪質だ。今後も、何があるかわからない。自分の身辺に気を配れ」

「………」

どこが「少々」だと、俺も溜め息をついた。あのカフェでの出来事と、見せられた写真、そしてこの記事が、全て結愛ちゃんの仕組んだものだとしたら、俺も黙って手をこまねいているわけにはいかない。

「達樹。あと、記事が発表される前に、加納菜々には一本連絡を入れておけ」

「え!?」

顔を上げ、俺の投げ捨てた記事を眺める遠野さんに目をやった。

「遠野さん……彼女を心配してくれるんですか?」

俺の言葉に、遠野さんはまたふうっと息をついた。

「お前は加納菜々と何かあるとすぐ、仕事に影響が出るからな。別に、加納菜々を心配して言っているわけじゃないぞ」

「なんすか、その言い方。素直じゃねーなあ」

「まあ……加納菜々がお前にいい影響を与えているようなのは間違いなさそうだからな。しっかりフォローしてやれ」

「……はい!」

会議室を後にしながら、少しずつでも、菜々ちゃんとのことを事務所が認めてくれつつあるんだと嬉しくなったが、遠野さんの「しっかりフォローしてやれ」という言葉を思い出し、足が重くなる。

このことを菜々ちゃんに話したら……菜々ちゃんはなんて言うだろう……。

やましいことなんて何もしていないのに、こんなことであらぬ嫌疑を掛けられてしまうことに、心底うんざりしてしまった。
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