078 シャングリラ後日談

□あなたのことを教えて
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「じゃあ……次は私が、達樹くん怒らせる番ね」

「え!?」

「えーと……中2のとき、初めて彼氏ができて、半年くらい付き合ったけど、なんていうか……今で言うモラハラみたいなのがひどくて、我慢できなくて私からお別れした。高校生になって、二人目の彼氏ができて、その人とは長く続いたけど、受験勉強で会えない日が続いて、そんな時に、バイト先の女の子が好きになったから別れてほしいってフラれちゃった。その次に付き合ったのが、武史……達樹くんも知ってる、あの人だよ」

「ああ。ライターの奴」

「ら、ライターの奴……まあ、そうだね」

「俺マジで不思議なんだけど、菜々ちゃん、あいつのどこが好きで付き合ってたの?」

「いやー……自分でも思うけど、最初はあんな人じゃなかったんだよ……」

「モラハラって言ってたけど、あいつモラハラどころかDVじゃん!」

「あ、あんなことされたのは初めてだったよ! でも、確かに……遅刻もドタキャンも浮気も、なんでもありの人で……それなのに別れるって言うと、そのたびに大騒ぎするから、つらかった」

ふう、と溜め息をつくと、達樹くんはまた苦しそうな顔になった。

「……ごめんね、思い出させて」

「いいよ、全然。もう終わったことだし。達樹くんこそ、平気なの?」

「うん。意外と平気だった。すげーイヤな汗かいたけど」

全然、平気じゃなさそう!

胸元に顔を突っ込んで匂いを確かめる達樹くんに、笑ってしまう。思わず、達樹くんの肩に頭を凭せ掛けた。

「達樹くん……私にとっても、達樹くんは特別だよ。お付き合いする前と、後とで、態度を変えないでいてくれた人は、達樹くんが初めて!」

「ええっ……そうなの?」

「うん。私、ほんとに幸せだよ。好きな人が、私のこと好きって思ってくれて、お付き合いできて、優しくしてくれて、仲良くしてくれて……しかも、その人が坂井達樹だっておまけまでついてるんだもん!」

そう言うと、達樹くんの肩に乗せたままの私の頭を、彼はそっと撫でてくれた。

「……俺も、すげー幸せ。俺が坂井達樹だから付き合うんじゃなくて、坂井達樹だってことを、おまけだって思ってくれる子と付き合えるなんて、夢みたいだよ」

視界が暗み、唇を寄せられた。唇が離れ、そっと目を開けると、玄関でのキスの時と同じ、熱に浮かされたような達樹くんの瞳がそこにあった。きゅっと胸が締め付けられ、あの時は「恥ずかしすぎて死ぬ!」なんて思っていたくせに、無意識に、私からも達樹くんに口付けた。

「菜々……」

強く肩を掴まれ、もう一度キスされた。舌を絡められ、体がびくついた。

「ん、やぁ……っ、達樹く……、もう、インタビューいいの?」

「……うん、もういい。これから少しずつ、菜々のこと知りたい。菜々も、これから……テレビでは見せない俺のこと、少しずつ知っていって?」

その言葉に、言いようのない感覚が、ぞくぞくと体の中を巡った。

テレビを観ているだけでは知り得なかった坂井達樹のことを、私はこれから、少しずつ知っていける……。

私も、達樹くんのこと、もっと知りたい。そして、私のことも、たくさん知ってほしい。その上で、これからずっと……何があっても、お互い好きなままでいられたら……。

いつの間にか、私の肩を強く掴んでいた達樹くんの手の力は、優しく緩められていた。その感覚を味わっていると、本当に、きっとこれから、長く、仲良く、一緒にいられるような気がしてしまう。テーブルから落ちそうになっているクリップボードを達樹くんの肩越しに見つめた後、私はゆっくりと目を閉じ、私に触れる達樹くんの優しい手の感覚を再び味わうのだった。



END
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