078 シャングリラ後日談

□一に看病二に薬
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私の部屋で、達樹くんと二人で『シーソーゲーム』を観て数週間。大学はもうすぐ春休みに入る一月の終わり、その日は雪が降っていた。四回生になれば、いよいよ就職活動が忙しくなるが、私はまだ自分のしたい仕事を決めあぐねていた。

「菜々、おはよー。えらい厚着だね?」

必修の一限の教室で、仁美に声を掛けられた。

「おはよぉ。だって、雪だよ! 寒いよ!」

「そりゃ外は寒いけど! 中はあったかいじゃん」

「そうかなあ……全然、暖房きいてなくない?」

「え〜〜? うそー……私だけ? いや、みんな上着脱いでるよ……?」

特に気に留めていなかったが、講義が終わっても、寒気は治まらなかった。一人、コートを羽織ったままの私の側に、仁美が近寄って来た。

「菜々……顔色悪いよ。どうしたの?」

「わかんない……寒い……」

仁美はそっと手を私の額に当てた。

「うーん……熱はなさそうだけど。このあと、授業は?」

「今日は2限、4限、5限かな……」

「入ってんねぇ。出れる?」

「ん……2限は必修だから出るよ」

「そっか。無理しないでね」

根性で二限は出たが、寒気は治まるどころか、ひどくなっているように感じた。仁美が売店で買って来てくれた体温計で体温を計ると、三十七度五分だった。

「やばいじゃん!」

「やばいかな……」

「もう今日は帰りなよ。バイトは?」

「19時から入ってる……」

「電話しなよ!」

言われて、店に電話を掛けてみた。

『お電話ありがとうございます。レストランフェリチタ、川島がお伺いいたします』

「川島さん! お疲れ様です、加納です」

『えっ!? 菜々ちゃん!? 久しぶり〜〜!!』

電話に出てくれたのは平日ランチタイムの主婦さんだった。

「お久しぶりです。今日店長いますか?」

『店長、今席外してるのよ。どうかしたの?』

「今日19時から入ってるんですけど、ちょっと熱があるみたいで……」

『えっ! 大変! ちょっと待ってね、シフト、シフト……。んー……今日、人足りてるっぽいけどね。伝えて、折り返ししてもらうよ!』

「すみません。お願いします」

通話が途切れた。

折り返しか……ちょっとイヤだなあ……。

「菜々、どうだった?」

「店長、いなかった。折り返しだって」

「そっか……とりあえず、今日は帰ろ? 1人で帰れる?」

「大丈夫だよ。仁美は3限もあるでしょ?」

そうは言ったものの、私は部屋に帰るのもやっとだった。玄関に倒れ込んだタイミングで、店長から折り返しが掛かって来た。

『加納さん、お疲れ様。熱があるって?』

「お疲れ様です……すみません……」

『大丈夫だよ。俺もいるし、今日と、明日も念のため休もう。そこから数日空くから、もしそれまでに良くならないようならまた連絡くれる? 病院に行って、安静にするんだよ。何かあったらすぐに教えてね』

「ありがとうございます……」

今のバイト先は仕事内容はハードだが、店長も仕事仲間もいつも優しいので続けていられるところがある。なんとか着替えてベッドに横になったが、寒気は治まらず、どんな姿勢でいてもつらい。食欲も湧かず、トイレに立つのも苦痛だった。

病院に行かないと……。

そう思いながらも、また着替えてこの体を引きずって歩く気になれなかった。
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