078 シャングリラ後日談

□君と描く未来
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「ただいまあ。お父さん、お母さん! いるー?」

「へっ!? 菜々!? どうしたの、あんた!」

「ちょっと話したいことがあって、帰ってきたの」

「もうあんたは……連絡くらいしなさいよ! お父さーん! 菜々が帰ってきたよ!」

達樹くんからプロポーズされた翌週の土曜日、私は久し振りに実家に帰った。達樹くんとの約束通り、結婚のことを両親に報告するためだ。

「菜々、あんた、彼氏と結婚の話にならないの? もう、三上さんとこも、村田さんとこも、お嬢さん結婚したのよ!」

ここのところ、実家に帰ると毎回、母はこんな調子だ。これが鬱陶し過ぎるので、最近実家から足が遠退いてしまっていた。

「もう……お母さん、会うなりやめてよ! 今、私の年で結婚する方が珍しいよ!」

「だってあんた、20歳の時から同じ人と付き合ってるんでしょ? 長く付き合うとタイミング逃すのよ! どうすんのよ、このまま付き合って、30過ぎてから別れることになったら! もう貰い手いなくなるよ!」

もう、返事をするのも面倒くさい。思わず溜め息をついた。

「菜々!! 聞いてんの!?」

「聞いてます……」

「この分じゃ、涼太の方が先に片付くかもね。一度もうちに挨拶にも来ないし、どうせろくな彼氏じゃないんでしょ!」

さすがに声を荒げそうになったところで、父が姿を見せた。

「母さん、玄関でやめてやりなさい。菜々、お帰り。何かあったのか?」

父の姿を見て安心した。漸く靴を脱ぎ、鞄を置いた。

「とりあえず座らせて。お母さんお茶淹れといて!」



テーブルに着き、両親の向かいに座った。まだ達樹くんが来る本番じゃないのに、妙に緊張してしまう。

「何なのよ、改まって! 変な話じゃないでしょうね」

「変な話ってなに……。えっと……さっきお母さんにも言われたけど……彼氏に、結婚しようって言われたの……」

母は目を輝かせた。

「本当!? 早く言いなさいよ!!」

「菜々、嬉しいだろうが、お父さんとしては、どんな人なのか全く知らないし、心配だな」

「うん……今まで、どんな人なのかって全く言って来なかったのは、わけがあって……」

父も母も、体を強張らせた。

「な、なんなの? 怪しい人なんじゃないでしょうね!」

「挨拶には来てくれるのか?」

「うん、来たいって言ってる。あの……私、学生の時、舞台やったでしょ? あの時知り合った人で……えーと……坂井達樹……なんだよね……」

「はあ!?」

母は目を丸くした。父もあんぐりと口を開けている。

「坂井達樹って……俳優の? 菜々の相手役をやってた?」

「そう」

「な、何言ってんの。冗談やめなさい!」

「冗談じゃないの。ほんとなの」

「坂井達樹……坂井達樹!? あんな大人気の俳優が、あんたみたいな一般人と付き合うわけないでしょ!」

「私も未だにそう思うんだけど……」

ちらりと父を見ると、何かを考えるように視線を宙に泳がせ、口だけを動かすようにして言った。

「……あの舞台の少し後に、坂井達樹が菜々と付き合ってるっていうニュース記事が出たことがあったな。それが本当だったってことか?」

「……そう」

父も母も、顔を見合わせた。

「今まで……言えなくてごめんなさい。彼の職業を考えると、できるだけ人に知られたくなかったの。彼の方は、早く結婚したい、私のお父さんお母さんに認めてもらいたいってずっと思ってたらしいけど、事務所の許可が降りなかったんだって。娘が芸能人と結婚するなんて、戸惑うと思うけど……彼と会ってくれる……?」

父は溜め息をついた。母も、私と父の顔を交互に確認し、戸惑いを隠せないといった様子だ。

「ちょっと、すぐには信じられないな」

「そうよ……まず会ってみないと……会っても信じられなそうだけど……」

「涼太は知ってるのか?」

「電話した。すんなり信じたよ」

プロポーズされた次の日に、弟にはとりあえず電話した。あまりにあっさりと受け入れるので、こちらが拍子抜けしてしまった。ぼんやりと、弟とのやりとりを思い返した。
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