078 シャングリラ後日談

□シンクロ
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『え!? 仁美ちゃんも結婚するって!?』

「そう! もう、びっくりしちゃった!」

その夜、私は電話で達樹くんに仁美のことを話していた。

『え〜〜すげえ!! おめでとうって伝えてよ!! もし式挙げるんだったら、俺行きたい!!』

「いや、ダメダメ! 達樹くん、別に友達じゃないじゃん」

『うーわ。冷てーな、菜々ちゃん! 散々、世話になっただろ?』

「いやまあ、もちろんそうなんだけど。大騒ぎになっちゃうよ!」

『……確かに直接の友達じゃないけど、もし俺らの方が先に結婚したら、夫婦として行けるじゃん』

夫婦!!

「や〜〜……夫婦とか、そんなこと言わないで……」

『なんでだよ! 間違ってないじゃん!』

「そうだけどお……」

『で? ご両親には?』

「う……まだ言えてない。涼太には今から電話してみようかな。まず難易度の低い弟からで……」

『そっか。いやー……早く挨拶したいって思ってたけど、緊張すんなあ……』

「そうだね……何しろ6年付き合ってて、一度もどんな彼氏かって話してないんだから」

『そんなん言うなよ……こえー……』

「達樹くんは、ご家族に話してるの?」

『俺は話してるよ。舞台で共演した子と付き合ってて、事務所の許可もらい次第結婚したいって』

「ええっ! なんて言われてるの?」

『親父は、ふーん、みたいな感じ。母さんは、早く事務所がいいって言ってくれたらいいわねー、って。兄貴は、あんま彼女待たすなよ、つってたな』

「……私も、達樹くんのご家族に挨拶に行かないといけないんだよね……こわい!」

『大丈夫だよ。親父はちょっと気難しいとこあるけど、母さんと兄貴は歓迎してくれるよ』

「そっか……」

うちの親は……特に母は、なんだかんだで、坂井達樹がお婿さんになるとすると喜びそうだが、達樹くんのご家族は、私みたいな素人が嫁に来るとなると、どう思うだろう……。

そう考えていると、達樹くんが静かに言った。

『菜々ちゃん……ひとつひとつ、片付けていこう。難しいこともめんどくさいことも……菜々ちゃんと一緒だと思うと、俺すげえ楽しみだよ』

胸が締め付けられた。指輪を眺めながら、私も言った。

「うん……ありがとう。私も楽しむよ!」

達樹くんはふっと笑った。

『……そろそろ行くね。弟さんに電話して。なんて言われたか、ラインしといてよ』

「わかった。気を付けて行って来てね」

『ありがとう。じゃあね』

通話が途切れた。達樹くんの言葉を、ゆっくりと思い出して、また飲み込む。

「難しいこともめんどくさいことも、菜々ちゃんと一緒だと楽しみ」……。

結婚生活すべてに、言えることだな。

ありがたい気持ちを噛み締めながら、友達リストから弟の名前を探した。



END
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