078 シャングリラ後日談

□シンクロ
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「ねー、菜々。実はさあ」

「ん?」

「私も、結婚するの」

「ええっ!?」

驚いて顔を上げると、仁美は照れ臭そうに右手を首の後ろに回した。

「この前菜々に会ったあとすぐかな? プロポーズされた。菜々みたいに、指輪はもらってないけど」

「ほんと!? おめでとう……!! なんですぐ言ってくんないの!?」

「だって……菜々の方が長く彼氏と付き合ってるし、言いにくいよ……」

「なにそれっ! おめでたい話なんだから気にしなくていいのに!」

「まあ……結果、おんなじタイミングになったから、いいっちゃいいんだけど」

仁美の嬉しそうな表情に、私まで嬉しくなる。

「仁美、おめでとう。式とかどうするの?」

「うーん、私、式はあんま興味ない。フォトウェディングでいいかな。お金かけたくないし」

「ああ、写真だけ撮るやつね。式行けないの、ちょっと寂しいけど……」

「翔の方が式挙げたがってるんだよね。まだ25のくせに、気が早いヤツだよ」

そう言いながらも、仁美は嬉しそうだ。素直じゃないなあと思う反面、そんな所も可愛いと思えて来る。

「菜々は式とかどうすんの? めっちゃくちゃ盛大になりそうだね」

「ええっ……昨日プロポーズされたとこだよ。なーんも考えてないよ」

「もし挙げるんなら、絶対呼んでよね!」

「もちろん呼ぶけど……達樹くんどう思ってるかわかんないなあ」

「芸能人だもんね……でも、達樹くんの方が割とそういうこと具体的に考えてそうだね」

「確かに……ずいぶん前から事務所に結婚したいって頼んでたらしいから」

「マジで!? も〜〜ほんとすてき……」

「もう、私からしたら寝耳に水だから。青天の霹靂だから! 達樹くんからしても、とりあえずお互いの親に挨拶して、マスコミに発表して、それから……って感じじゃないかなあ」

「それが本当に大きな関門だね。菜々、親に彼氏が坂井達樹だって話してないんでしょ?」

「うん。反対されたら詰む……」

「大丈夫だよ! 真面目で、菜々のこと大切にしてくれてるもん。わかってくれるよ」

「だといいけどね……」

「マスコミに発表っていうのも、怖いねえ。世間にどう思われるかとか……菜々のとこにまでマスコミが来たりするかも……まあ、達樹くんに任せておけばいいんだろうけど」

「ほんと……考えることいっぱいだよ。時間かけて話し合うしかないなあ……」

ふう、と溜め息をつくと、仁美に力強く背中を叩かれた。

「いったあ!! 何よもう!!」

「幸せな悩みってやつだよ。菜々……結婚しても、今までみたいに会おうね」

「もちろん! でも、家には行きにくくなるし、呼びにくくなるねぇ」

「菜々と達樹くんの新居は、ちょっと興味あるけどね。達樹くん、すっごい豪邸買うんじゃない?」

「ええっ……イヤだ、私! 掃除大変じゃん!」

「そこ!? 庶民は大変だよね、ほんとに」

二人で笑い合った。腕時計を見て、仁美が立ち上がった。

「何の話かと思ったけど、幸せな報告でよかったよ。夕方からって言ったけど、もう行くわ。翔に会いたくなっちゃった」

珍しく素直な仁美の笑顔は明るくて可愛い。

「それ、ちゃんと本人に言うんだよ」

「いや〜〜本人には言えないなー……」

「何それっ! 翔くん、かわいそう!」

「まあ……気が向いたらね。菜々、また何かあったら連絡して! 私もするから」

「約束だよ! もう変な気遣わないでよね」

「わかった、わかった。じゃあね!」

扉が閉まった。

中学の頃からの付き合いの仁美と、まさか結婚の話をすることになるなんて……。

まだコーヒーが残っているカップを片付けながら、仁美の嬉しそうな顔を思い出し、私も自分のことのように笑みが零れてしまうのだった。
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