078 シャングリラ後日談

□エメラルド
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車の窓から夕焼けに染まる町並みを眺めると、桜の花びらがいくつも舞っている。どこにも木が見えないのに、お花見をしているみたい……とぼんやり思った。

私は来月、二十七になる。達樹くんとのお付き合いは、もう七年目だ。長く一緒にいるようにも感じるが、二人の関係に、そこまで大きな変化はないと自分では思う。達樹くんは、今年三十一になる。出会った頃はアイドル俳優的な役が多かった達樹くんも、最近は刑事、医師、教師や、犯罪者だったり、サイコパスだったり、お父さんの役を演じることもある。

「菜々ちゃんがいっぱいいる!」

突然、車を運転している達樹くんが声を上げた。

私がいっぱい!? 何それっ!

達樹くんが指さす方向を見ると、河原に菜の花がたくさん咲いていた。

「菜の花ね! びっくりしたあ。心霊現象かと思ったよ!」

「なんでだよ! こえーよ! きれいだね、菜の花」

「うん。もうそんな季節なんだね」

信号が赤になる。ぼうっと菜の花を眺めていると、達樹くんがまた声を上げた。

「菜々ちゃん、来週の土曜日、空いてる?」

「来週? うん、何もないよ。どうして?」

「ちょっと出かけよう。俺も休みだから」

「えっ! 珍しいね。でも……出かけるって、大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。たまには外でデートしよう」

外でデート、という一言に、思わず胸が熱くなる。ごまかすように俯き、尋ねた。

「出かけるって、どこに行くの?」

「秘密。当日のお楽しみ」

「ええー? だって、もしハイキングとかだったら、スカートにヒールとかじゃ行けないよ!」

「あー……まあ、スニーカーがいいかな。あとはマジで何でもいいよ」

「えー……こわい。歩く系?」

「大丈夫だって! ちゃんと空けといてよ!」

「うん……わかったよ」

楽しそうな達樹くんに、それ以上何も言えなくなった。

外でデート……なんて、大丈夫かなあ? もし、誰かに見られたりしたら……。

心配しながらも、滅多にできない達樹くんとのお出掛けに、つい期待してしまうのだった。
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