078 シャングリラ後日談

□Surat
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「菜々ちゃん……会えるようになって早々、言いにくいんだけど……」

ベッドに腰掛け、マグカップの取っ手を弄びながら、達樹くんがゆっくりと切り出した。

「え……なに……?」

不安を隠し切れず、思わず達樹くんの顔を覗き込む。それでも、達樹くんは私の目を見てくれない。

「来月、中旬くらいかな……から、7月いっぱいまで、海外ロケが入ったんだ」

海外ロケ!

「映画の撮影で。もしかして、これがあるから菜々ちゃんに会う許可が下りたんじゃねーかってタイミングだな……」

一ヶ月半……。

「海外ロケって……どこに行くの?」

「マレーシアだよ。俺、初めて行くわ」

「マレーシア……近いようで遠いね……」

「時差はそんなにないみたいだけど……。ラインはできても、電話が……たぶんあんまりできなそうなんだ。一人になれる時間が少なそうだから……。ほんと、申し訳ないんだけど……」

「全然、大丈夫だよ! 何かと思った……」

「全然大丈夫!? ほんとかよ!」

「週刊誌に写真撮られて、いつまでかもわからずに会えないことになるより、ずっといいよ。無事に帰って来てくれれば」

そう言うと、達樹くんはぎゅっと私を抱き締めてくれた。

「ありがとう……ごめんね。帰って来たら、一番に会いに来る」

「ふふ……待ってるね。写真、たくさん撮ってきて!」

「わかった。お詫びといっちゃなんだけど、発つ前に、『シャングリラ』のメンバーで会おう。俺みんなに声かけるから」

「えっ! 本当!? 楽しみ!」

達樹くんの約束はうれしかったし、つい昨日までの終わりの見えない毎日より、ずっといいと本気で思っていた。だけど……。
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