078 シャングリラ後日談

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「できた! すぐ終わっちゃった……」

達樹くんはケーキを買って来てくれると言っていたので、あまりたくさん料理を作りすぎると食べ切れないだろうと、メインとスープだけにしたのだが、あっという間に作り終えてしまった。

先に掃除すればよかった……。

そういえば、ここのところまともに掃除をしていない。昨日も、部屋は散らかり放題だった。達樹くん、どう思ったかな……。

気合いを入れて部屋を片付け、掃除をした。料理より掃除の方が時間が掛かり、あっという間に時間が過ぎて行く。シャワーを浴びると、もう二十一時を回っていた。

達樹くん、二十一時ごろになるって言ってたな……。

そう考えながら、細かいところも掃除していても、達樹くんからの連絡はなかなかなく、彼が部屋を訪れてくれたのは二十二時を回っていた。

「菜々ちゃん、ごめん! 遅くなって」

「大丈夫だよ……って、どうしたの!? すごい荷物!」

ケーキが入っているんだろうなあ、という箱はわかるが、大きくて重そうな袋が目に付いてしまう。

「帰りがけに、マリナさんに会ってさ。この後付き合えって言われたけど、今日菜々ちゃんの誕生日なんでっつったら、いろいろくれたんだ」

「ええっ! わざわざ……」

玄関にしゃがみ込み、達樹くんは中身を色々と見せてくれた。

「これはシャンパンだって。飲みやすいから、お酒に強くない菜々ちゃんでも大丈夫だと思うって。これがハンドクリームっつったかなあ? これがヘアオイルで、あ、これは昨日と同じ美容液で……もう、液体ばっかしで重いんだよ!」

「わあ、うれしい! こういうの、高くて買えないからほんとにうれしいよ!」

「俺はこういうの全然わかんねえ……」

「こういう美容液とか、デパートとかで買おうと思ったら1万円越えたりするんだよ……マリナさんが使ってるものなら、いくらするんだろう」

「1万円!? こんな小せえのが!? ウソだろ……」

達樹くんは信じられない、というように目を丸くした。

「女の人って、ほんとに金がかかるんだなあ……」

「そうだよー。みんなきれいになろうと努力してるんだから!」

「そんなことしなくても、菜々ちゃんはきれいだし可愛いよ」

「すっぴん見てから言ってください」

「見せてくんねえじゃん!」

「ふふ。さあ、ここじゃなんだし、入って! おなかすいちゃった」

「そうだよね、遅くなってごめん」

あらかじめ作っておいた料理を温めて盛り付け、テーブルに置くと、達樹くんは目を輝かせた。

「タコライスだ!」

「うん。簡単で、野菜もたくさんとれて、大好きなんだけどとにかく1人分作るにはコスパが……」

「すげえ彩りがきれい……。これって、家で作れるの?」

「作れるよ! 15分でできるよ。教えてあげる。今度は私に作って!」

「ええー! 自信ねえなあ……。食っていい?」

「うん。食べよ!」

「いただきます!!」

半熟卵を潰して、かき混ぜる。中から湯気が立ち上った。

「うま!!」

「ほんと? よかった!」

「これが、ほんとに15分でできんの? 菜々ちゃんすげえ……」

「ほんとに、簡単なんだよ! 材料があったら……」

思わず、言葉を切ってしまった。達樹くんが、食べるのをやめて、俯いているからだ。

「ど、どうしたの?」

「いや……菜々ちゃんの手料理、久しぶりだから……。幸せだなあって……」

あ……。

「俺の誕生日の時に、菜々ちゃん、言ってたよね。達樹くんのお誕生日なのに、私の方がうれしいし幸せだって。俺も同じ気持ちだよ。俺の方が、プレゼントもらってるみたいで……」

達樹くん……。

「……大げさだよ。これくらい、いつでも作るよ。あったかいうちに食べて?」

「……うん、ありがとう。あ! シャンパン飲む?」

「ええっ! 私だけ?」

「俺も飲むよ。代行頼むから、大丈夫!」

「えー……じゃあ、少しだけ。おしゃれなグラスなんてないけど……」

「なんだっていいよ。紙コップでもいいし」

「あははっ! それこそないよ!」

マリナさんのシャンパンは、本当に飲みやすくておいしかった。達樹くんには甘すぎたようで、彼の飲み残しは私が飲んだ。あっという間にお皿は空になった。達樹くんが買って来てくれたケーキは、本当にイチゴがたくさん乗っていた。

「おいしそう! きれい……! フレジェみたい」

「ふれじぇ?」

「フランスのショートケーキみたいな感じかな。本場のものは生クリームじゃなくてバタークリームを使うらしいけど」

「おお……よくわかんないけど。実は買いに行く時間なくて、後輩にテレビ電話であれこれ注文つけながら買って来てもらったんだ」

「そうなの!? なんか、後輩さんに申し訳ない……」

「釣り渡しといたから、大丈夫! 食おう食おう。あれやる? ロウソク差してハッピーバースデー歌う? 火は点けないから!」

「やだよっ! 時間も遅いし、いくつだと思って……」

「ハッピーバースデートゥーユー♪ ハッピーバースデートゥーユー♪」

「もお! 子供扱いしてっ!」

そのケーキは、今まで食べたケーキの中で一番おいしかった。達樹くんは私以上にうまい、うまいと食べていて、ホールケーキが残り四分の一にまで減ってしまった。

「あー、うまかった! 菜々ちゃんのケーキなのに、すげえ食っちゃった……」

「あははっ! いいよ、全然。ひとりじゃ食べ切れないもん」

「ごめんね。残りは食べて! ……あっ!」

思い出したように、達樹くんは掛け時計を見た。
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