078 シャングリラ後日談

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週刊誌に写真を撮られ、達樹くんと会えなくなってから、およそ一ヶ月。終わりの見えない日々に疲れ切り、絶望し掛けた時に、事務所から許可が降りたと達樹くんが会いに来てくれた日は、私の誕生日の前日だった。日付が変わり、うちに泊まって行きたいから車をパーキングに停めて来ると言って、戻って来た達樹くんは、小さめのボストンバッグを抱えていた。

「どうしたの? そのバッグ」

尋ねると、達樹くんは悪戯っ子のような笑顔を見せた。

「実は最初から泊めてもらう気でいたから。さすがに菜々ちゃんの部屋着は俺じゃ着れないと思って、着替えが入ってる」

「な……」

ちゃっかりしてるんだから! と言いながらも、私に会いたいと思ってくれていた気持ちの表れなのだろうと思うと、それも嬉しく感じてしまう。

「それだけじゃないんだけどね」

そう言って、達樹くんはソファに腰掛け、膝に乗せたバッグのファスナーを開けた。

「マジで、菜々ちゃんに何をプレゼントしようか悩んで……。そんな時に、部屋整理してたら、いろいろ見つけてさ」

達樹くんが取り出したのは、彼のデビューの頃の映画のパンフレットや、クリアファイルやステッカーなどのグッズだった。

「わあっ、すごい! これ、もう今じゃ手に入らないやつだよ!」

一つ一つゆっくりと眺めた。高校生の時に俳優デビューした達樹くんの姿はただただ初々しい。

「達樹くん、若い……可愛い! これも、これも、初回限定のやつだ! すごい!」

「菜々ちゃん、俺より詳しいね。俺もう、これが何かも覚えてねえ……」

「えっ、これ、くれるの?」

「うん、もしいるんなら。俺はいらないし」

「ひゃ〜〜〜も〜〜〜超うれしい……!! ありがとう大切にするっ!!」

「なんか、ピアスの時よりいいリアクションしてくれんなあ……」

「いやいや、そんなことないよ。同じくらいうれしいよ!」

そう言いながらも、確かにピアスの時よりもだいぶ派手に喜んでしまったと反省した。

あとでこっそり達樹くんのコレクションばかりが入っている棚にしまっておこう……。

そう考えていると、達樹くんが切り出して来た。

「で。菜々ちゃん、今日の学校とバイトの予定は?」

「え? えっと……授業は一限から四限までで、バイトは休み。ゴールデンウィーク働きすぎて、調整入っちゃったの」

「おっしゃ。俺、なんとか早めに仕事切り上げるから、またここに来ていい? 一緒にご飯食べよう」

ええっ!

「つっても、21時ぐらいにはなると思うけど……。あ! もしかして、友達とパーティする予定とかある?」

「な、ないない! 誕生日ってこと、忘れてたし」

私の言葉に、達樹くんは申し訳なさそうに眉を顰めた。

「……今日は菜々ちゃんの誕生日だから、なんでも菜々ちゃんの言うこと聞くよ。どこか外で食いたかったら行こう。出かけたいところがあったら出かけよう。ほしいものがあったら……」

「達樹くん」

遮るように、達樹くんの手を取った。

「私、なんにもいらない。達樹くんがいれば、それだけでいい。本当に会いに来てくれるんなら、何かご飯作って待ってるよ」

私の言葉に、達樹くんの表情が泣きそうに歪んだ。

「……ありがとう。でも……菜々ちゃんの誕生日なのに、ご飯作ってもらうの悪いなあ」

「もちろん、私の誕生日なんだから、私の食べたいメニューにするよ。いいでしょ?」

そう言うと、達樹くんはやっと笑ってくれた。

「……わかった。何作ってくれるの?」

「えっ……んーと……適当に考えるよ……」

「……考えてませんでした、っていうのがすげえ伝わって来たよ。じゃ、ケーキ買ってくる。どんなのがいい?」

「イチゴの! イチゴのやつ!」

うきうきして言うと、達樹くんは目を細めて私を見た。

「……可愛い。菜々……」

達樹くんの熱い瞳に捕らえられ、腕の中に閉じ込められた。

達樹くん、あったかい……。

本当に、誕生日に達樹くんに会えるなんて、夢みたい。

達樹くんの唇を受け止めながら、今日の夜にも彼に会えると、期待に胸を膨らませるのだった。
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