078 シャングリラ後日談

□君に歌う歌
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「そういえば……佐々木さん、マリナさん。この前は、お力添えをいただいたみたいで、ありがとうございました。ご迷惑をおかけして、すみません」

テーブルに料理が並べられ暫くしてから、姿勢を正して、私は切り出した。週刊誌騒動の時に、マリナさんは佐々木さんと高崎さんに声を掛けて、達樹くんのマネージャーに直談判してくれたと聞いている。このことを私はどうしても直接謝りたかった。

「私、その話詳しく聞けてないです。教えてください!」

森野さんが身を乗り出した。マリナさんはふっと息をついて、穏やかに話した。

「大したことしてないわよ。高崎さんとミコトと一緒に坂井のマネージャーに脅しかけただけ。菜々ちゃん、私たちみんな、全然迷惑だなんて思ってないわよ。ただ、坂井はまだ若いし、事務所に楯突くのも難しかったと思うわ。立ち回り方もね。坂井がうまく動けなかったせいで、菜々ちゃんに寂しい思いをさせたこと、私こそ菜々ちゃんに申し訳なく思ってるわ。ごめんね」

「そ……そんな、マリナさんが謝ることじゃ……」

「あの時の坂井の仕事っぷりはマジで仕事になってなかったですからね。見てられなかったですよ」

そう言って、大北さんは料理を頬張った。

「確かにな。俺は達樹と仕事で一緒になることはなかったから話に聞くだけだったけど、マリナも高崎さんもみんなも、このままだと達樹がやばいって思ったよ。そして同時に、みんな菜々ちゃんを心配した。一応、芸能界に身を置いている達樹がこれなのに、このダメージを一般人の菜々ちゃんが背負い込めるわけないって。でも、達樹を差し置いて菜々ちゃんに連絡するのはルール違反かと思ったから、ああいう方法を取ったって感じだね。結果うまく事が運んだから安心したよ」

佐々木さん……。

「本当に……稽古中もだったけど、舞台が終わった後まで、皆さんにご心配をおかけして……」

「もう、それは言いっこなし! 結果オーライよ! みんな、もう坂井と菜々ちゃんは息子と娘みたいに思ってるんだから!」

「ええ!? 私もですかっ!? 私、坂井くんと年変わらないのにっ」

「俺も、まだ30前なのに……」

「いーの! 細かいことは! さ、乾杯するわよ!」

そこで扉が開き、息を切らした達樹くんが入って来た。

「お疲れ様です! 遅くなりました」

「おーおー、来たな。今、お前の悪口で盛り上がってたとこだよ」

「え!? なんすか、いきなり! 何もしてませんよ!」

「何もしてないからよ。早く座って! あ、菜々ちゃんの隣よ!」

体が強張った。そういえば、お付き合いをすることになってから、達樹くんと外でご飯を食べるのは初めてだ。それが、『シャングリラ』のメンバーと一緒に、隣り合わせで座って食事するなんて……。

考えをごまかすようにお酒を口に含むと、何も気に留めていないような達樹くんが自然に私の隣に座った。

「菜々ちゃん。あんま飲み過ぎちゃダメだよ」

「う……わかってるよ」

やりとりを聞いて、皆が一斉に溜め息をついた。

「お前、まだ『菜々ちゃん』ってちゃん付けで呼んでんのかよ!」

「え!? 変ですか!?」

「飲み過ぎちゃダメだよって、奥さんじゃないんだから!」

「いや、前にここで飲み過ぎて大変だったから!」

「ほんとに付き合ってんのか? 『シャングリラ』の時と大して関係性変わってないような……」

「もー!! なんすか!! みんなして!!」

ギャーギャー騒ぐ皆に、笑いが止まらない。達樹くんに会えない間つらかった心が満たされて行く。何より、楽しそうな達樹くんを見ていると、私まで楽しくなってしまう。隣に座ることを躊躇っていたくせに、もうそんなことは忘れて、単純な私はただ皆のお喋りに耳を傾けてしまうのだった。
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